見出し画像

おせち料理、これだけあれば大丈夫+おまけ

お正月のおせちは買ってくるという時代になって久しいですが、たまには自分でつくってみるのもいいもの。とはいえすべてを自作するのは大変です。

そこで提案するソリューションは基本の祝い肴三種とお雑煮だけはご自分で用意して、あとは買ってくる、という形。今から作ってもお正月に間に合います。

基本の祝い肴三種とは関東では「田作り」「数の子」「黒豆」で、関西では「田作り」「叩きゴボウ」「黒豆」を指します。今日は関東用で「田作り」「数の子」「黒豆」をつくります。昔のレシピとは違い、数の子は漬け地の味を薄めに、黒豆の砂糖の使用量も半分、田作りの甘さも控えめにしてます。

一日目

〈黒豆〉
黒豆 200g
上白糖 100g
醤油 小さじ1/2
水  700cc
鉄玉子、またはさび釘(あれば) 適量

まずは黒豆の準備からはじめます。有名な丹波の黒豆は表面に白い粉がふき、大粒。味にはコクがありますが高価です。

写真は函黒と呼ばれる函館近くで採れる黒豆。こちらは丹波の黒豆の3分の1ほどの値段であっさりしています。黒豆もこの時期に多くの新豆が出回るようになり、煮るのが簡単になりました。

まず豆は乾燥の過程で埃がついているのでよく洗います。

その後、水、砂糖、醤油を混ぜた煮汁につけ、冷蔵庫に一晩置いて豆を戻します。ちなみに熱い煮汁で戻すと皮の表面が固くなり(ペクチンの硬化)皮が剥がれる失敗が避けられますが、その方法だと皮が口に残るので今回は水で戻しています。

豆知識ですが煮汁で豆を戻すのは関西風の煮方。関東では水で戻してからやわらかく炊き、そこに砂糖を加えて歯ごたえを出します。関西の黒豆はシワがなく、関東の黒豆はシワが寄っているものでしたが、現在ではシワが寄るまで長寿に、という関東風はほとんど見かけなくなりましたね。

つづいては数の子の下処理です。

数の子 200g
漬け汁(5:1:1)
出汁  150cc
醤油  30cc
みりん 30cc

写真は北海道産の塩数の子。昔は干しカズノコを水で戻して作っていました。うるさい人は「干しカズノコじゃないと・・・・・・」と言いますが、今では干しカズノコは貴重品、手に入ったら自慢してください。

カズノコは水に浸けて、冷蔵庫で一晩塩を抜きます。この時、迎え塩や呼び塩といって1.5%〜3%の塩水に浸けるのが一般的です。塩水は何度か変えるのがポイントとされています。

なぜ、迎え塩をするのでしょうか? 調理科学の世界で迎え塩というと必ず昭和二年(!)に栄養研究所で行われた古い実験結果が参考として掲載されています。その実験によると真水と塩水では塩化ナトリウムの溶出にほとんど差はなかったとのこと。

その上で塩水を使う理由として「旨味の流出を防ぐため」や「食塩中の不純物、塩化マグネシウムや塩化カルシウムの溶け出しが塩化ナトリウムよりも遅いため、ゆっくりと時間をかけて塩抜きをする必要があるから」と説明されます。一見するとどちらももっともらしい理由です。でも、それは本当なのでしょうか? 

試しに水に浸けた状態で三十分おきに水を味見してみます。もしも、カズノコから旨味が流出しているのであれば、カズノコ風味の出汁が出ているはずですが、その様子はありません。迎え塩には旨味の流出を抑える働きは期待できず。(そもそもカズノコに旨味なんてあります?)

次にカズノコを味見してみても、いつまで経っても苦みは感じません。そもそも、塩化マグネシウムや塩化カルシウムの残存を心配する必要があるのでしょうか。カズノコの製造に広く使われているのは最もコストが安い塩化ナトリウム99%の食塩。にがり成分は含まれてないのです。

本稿の推論は迎え塩は1972年までの流下式枝条架併用塩田製塩(流下式並塩)で塩が製造されていた時代の風習なのではないか、というもの。効果が実感できないのは1971年に塩業近代化臨時措置法が施行されたからではないでしょうか。

実験の結果を信用するとすれば、真水と塩水での塩抜きの速度に差はありません。だとしたら気をつけるべきはどこまで塩を抜くか、という点だけです。この時、大きく関係するのは水の量。もしも、味見をして塩辛ければ水を足すようにしてください。水の塩分濃度をゼロにしてしまうと、カズノコの塩気が抜けすぎてしまいます。ここでかろうじて迎え塩の目的が見えてきます。迎え塩を加えた水を何度も替えながら塩気を抜くことで、カズノコの塩分濃度が1.5%を下回らないようにしていたのでしょう。

しかし、昔なら1.5%の塩分濃度はおいしく感じられたかもしれませんが、現在では塩気が強すぎ。というわけで塩抜きには真水を使い、最後は水を足しながら塩分濃度を調整しましょう。水にはかずのこから溶け出した塩分がありますので、完全に塩が抜けることはありませんし、何度も水を替える必要もありません。カズノコを食べて塩っぱくなければ大丈夫です。

二日目

カズノコの漬け地をつくります。

今日は5:1:1にしました。

カズノコの表面の薄皮を指でこすって剥がします。国産の高いカズノコを買ってきた場合、薄皮が剥がれづらいということが時々あります。その場合は重曹をつけてこすると皮がやわらかくなるので剥がれやすいです。

合わせ地につけます。

6〜8時間ほどで味が染みこんだら食べられます。地はそれほど濃い味にしてないのでそのまま漬けておいて大丈夫です。手で割るのが普通で、鰹節をまぶしてもおいしいです。

黒豆を煮る

黒豆がふっくらと戻りました。鉄を入れて戻したのでアントシアニンが発色して黒い色がきれいです。これを鍋に移し、砂糖を少しずつ足しながら8時間ほど煮るのが通常の作り方。今回は文明の利器、圧力鍋を使って、時間を短縮します。また、黒豆を煮るときに重曹を使うことがありますが、圧力鍋を使うなら必要なし。

圧力鍋に入れて強火にかけて、圧力がかかってくれば弱火に落として20分が目安です。硬めが好みなら15〜17分ですが、黒豆は柔らかめがおいしいと思います。

黒豆は二十分加熱したら、そのまま冷まします。冷蔵庫で冷やすと若干、硬くなるので柔らかめでOK。昔の作り方では塩を入れますが、味がくどくなるので入れていません。冷める途中で一度、蓋をあけて水量を確認してください。豆が水面から出ているとそこだけシワが寄ってしまうので、心配ならキッチンペーパーをかぶせておくと安全です。

冷めたら出来上がりです。これくらいの甘みが食べやすいと思いますが、好みで砂糖を足してみてください。その場合は圧力鍋で20分煮てから、圧力をかけずに弱火にかけ少しずつ足していったほうが安全です。

最後は田作りをつくります。

田作り
 田作り 50g
 酒  大さじ2
 醤油 大さじ1
 みりん 大さじ1
 上白糖  大さじ1
一味唐辛子

田作りはカタクチイワシを干したもの。お頭つきの魚なのでお目でたいとか、稲作の肥料としてイワシが使われていたことから、豊作を願って食べられていたそうです。

田作りをおいしくつくるポイントはゆっくりと慎重に炒ることです。そのため紙を敷き、弱火で加熱してきます。

10分経過でこの状態。茶色く焦げた炒りすぎで、苦くなってしまいますが、充分に水分が飛んでないと食感が硬くなってしまいます。というわけで弱火で炒りましょう。

一度、ざるにあげて細かい粉を取りのぞきます。

小鍋にすべての材料を入れ、強火で煮詰めます。泡が細かくなってきたら

火をとめて田作りを混ぜます。

昔は油を塗ったバットの上で冷ましましたが、今はオーブンペーパーが便利です。一味唐辛子を振り、冷めればできあがり。

おせちは一年に一度しか作らないのでなかなか勘所が難しいかもしれません。おせち料理の作り方は昔のまま、という方が意外と多いですが、どこかのタイミングで砂糖の量や塩分など見直す必要が出てきているのでは、と思います。素材も昔とは変わってますし。

おまけで「オレンジきんとん」です。皮を剥いたサツマイモ300g、リンゴ150gをひたひたの水でやわらかくなるまで煮て、ざるにあげて水気を切って鍋に戻します。木べらで潰し、上白糖60g、オレンジジュース80ccを加えて中火にかけて練り、好みの加減まで詰まったら栗の甘露煮を好みの量加えればできあがり。きんとん用にクチナシを買っても他の使い道がまずないので、黄色くするのであればオレンジジュースでいいのではないか、というレシピです。

あとはキンカンを甘く煮てみたり。キンカン1パック(200g)は縦に皮に切れ込みを入れ、湯で3分間茹でて苦みを抜きます。砂糖100gとかぶるくらいの水と一緒に鍋にかけて、弱火でことこと30分ほど煮汁がとろりとするまで煮詰めます。そのまま冷ませばできあがり。お正月休みで時間があれば、たまにはこういう料理も楽しいのではないでしょうか。


撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!