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フライパンで魚を焼く第3回~弱火編~

加熱した結果、魚が肉よりもパサつきやすいのはなぜでしょうか。それは魚のタンパク質が肉とは異なるからです。魚のタンパク質は肉よりもずっと繊細で、50度で収縮をはじめ、60度前後で乾燥がはじまります。これまでの料理では乾燥させるまで加熱しきってしまい、そこを調味料やソースで補うのが一般的でしたが、ここ最近はしっとりと火入れした魚を出すお店が増えました。

肉は低温長時間加熱することが増えましたが、魚はそうでもありません。それは魚は脂質やタンパク質分解酵素を多く含むので(特にイワシやニシン)長時間の加熱に向かないからです。つまり、長時間加熱すると脂質が酸化し味が悪くなったり、あるいは自己分解してしまって身がグズグズになってしまうということ。
もしも長時間、加熱したければ脂質の酸化を防ぐために酸素を遮断した状態で加熱をする必要があります。つまり、オイルサーディンや缶詰の水煮サバなどは酸素を遮断した加熱なので、理屈的に正しいわけですね。

また、魚は種類によっても火の通り方は異なります。例えばマグロやメカジキといったよく泳ぐ魚は火の通りが遅く、反対にタラのようにのんびりと泳ぐ魚は火の通りが早いので注意が必要。この違いはタンパク質の量によるものです。

さて、今日は身の薄い魚(スズキ)を弱火で焼いていきます。経木で挟んで、氷水のなかで保存しました。ちなみに0℃〜1℃の状態で保存した白身魚は2週間以上持つというデータがあります。 (もちろんそこまで保存すると味は落ちるようです)

弱火で魚を焼くことによるデメリットは香ばしい焦げ目がつかないこと。焼き色 がついていない皮は美味しくないので、焼きあがってから剥がすか、焼く前に剥がし てしまいます。

フライパンにオリーブオイルなどの加熱に強い植物油とバターを大さじ1をいれて弱火にかけます。バターを入れると温度の上昇が穏やかになり(バターには水分 が20%ほど含まれているため)、また特有の風味がつきます。

バターを入れると温度の変化がわかりやすくなります。泡立っている状態はおよそ100度、泡立ちが収まり色づく一歩手前の状態が120度前後です。

弱火で焼き続けています。縁が色づきはじめましたが、バターの泡立ちが収まりつつ あったので、バターを少し足しました。冷たいバターを投入することで油 の温度を下げ、加熱を穏やかにすることができます。

スプーンで油をかけながら加熱していきます。油をかけるのは身の厚い部分です。こ の工程で火の通りをなるべく均一にする狙いがあります。火加減はあくまで弱火を保 つため、必要とあれば火から外すのも結構です。よく乾燥を防ぐという言い方をしますがそれは明らかに誤りで、油をかけるのは火の通りを早めたり、均一にするためです。

かなり温まってきました。最初に説明した加熱温度を思い出してください。表面の状態、弾力などを確かめつつ、火加減を確かめていきましょう。目安としては身の側面が膨らんできたら、裏返すタイミング。

裏返したらさらに火加減には注意。強火編でも説明しましたが、魚は温度の上昇が早いので、裏返したらすぐに火が通ってしまいます。

ここまでで3分~4分ほどです。フライパンから引き上げて温かいバットなどに移し て脂を切ります。

理想は身には透明感が残り、しっとりとしていること。

切った断面の血管にかすかに赤色が残っている状態が理想。火が通り過ぎると灰色になってしまいます。(もちろん、これは野締めや活け締めの魚の場合。神経締めされ、完璧に血抜きした魚では血は浮かびません)こうして焼きあがった魚はしっとりとした食感。自分はこのタイミングで塩を振りますが、もちろん最初に塩を振ってから焼いてもかまいません。それぞれ違った仕上がりになります。これ、ムニエルと火入れ自体は同じです(正確には粉を振ってないのでムニエルではないのですが)鮭のムニエルをつくるときにも同じ事を意識するといい感じに火が入ります。

トマトを入れた柚子バターソースにごま塩を振ってみました。付け合せは菜の花 です。今日のまとめとしては『身の厚い魚は強火でパリっと、薄い魚は弱火で焼くと失敗が少ない』といったところ。魚の焼き具合は説明が難しく、とにかく慣れて理想の状態をつかむしかありません。とにかく焼いて食べる、という繰り返しですね。

以下はおまけ。柚子バターソースはKIHACHIのシェフ、熊谷喜八氏の大発明。80年代の終わりから90年代にかけて誰もが真似をしたと聞いたことがあります。

柚子の絞り汁  大さじ2
トマト     1/2個
澄ましバター  60g
オリーブオイル 20g
エシャロットのみじんぎり 少々
塩、胡椒    適量

上記のレシピは喜八氏のオリジナルではなくオマージュですが、トマトは皮を剥き角切りにして、すべての材料を混ぜ合わせ弱火で温めるだけ。家庭では溶かしバターをつくるのが面倒ですが、当時としてはかなり革新的なソースでした。柚子とトマト、溶かしバターの組み合わせが絶妙で、名作と呼びたいソースです。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!