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サーモンは低温でコンフィにすると滑らかな食感に

オーストラリア、シドニーに「Tetsuya's」というレストランがあります。シェフの和久田哲也氏が創作した料理は世界中から注目され、多くのレストランがこぞって真似しました。
この店の有名なスペシャリテは「タスマニアサーモンのコンフィ」。
「サーモンステーキの中心のレアな部分、あれをもっと食べたいと思った」
 和久田さんは創 作のきっかけをこんな風に語っています。たしかに上手につくったサーモンステーキ の中心部は柔らかくジューシー。生とは違ったとろけるような食感はどうやって出しているでしょうか。

それには温度が関係しています。魚のタンパク質は20°Cから変成がはじま り、タンパク質の構造がほどけだし、そこに結合している水が離れはじめます。その変化は温度の上昇とともに進み、45°Cを超すと少しずつ硬くなりはじめます。
和久田シェフのサーモンコンフィはそんな40°C〜45℃をキープし、まさに『火が通った生』の質感を表現した料理。今日はそんなシェフの料理からインスパイアされた料理法を解説します。

まず用意するのは刺身用のサーモン。写真はオーストラリア、タスマニア産のトラウトサーモンです。トラウトサーモンはマスの仲間で脂肪分がほどよく、密な繊維が特徴です。重要なことはお刺身用のサーモンを購入することです。今回の調理では低温殺菌の温度よりも低い温度帯で加熱するため、完全には殺菌されません。そのため、あらかじめ菌がついていない素材を購入する必要があります。例えばスーパーや量販店など保健所の管理下において刺身用として売られているサーモンなら安全です。
低温調理におけるリスク管理については別の項で詳しく説明しますが、必要以上に怖がる必要はありません。しかし、もちろん腸炎ビブリオの危険性は常にあるので、沿岸部の高温の水域に棲む魚(シ イラやカツオなど)を皮付きのまま(腸炎ビブリオは海水に生息しているので表面に 付着します)低温調理するのは避けるべきでしょう。

まずはサーモンの下ごしらえから。深いバットに

冷水 360cc 
塩 36g
砂糖 18g

を用意し、よく溶かします。これはスカンジナビア料理の手法でブライニング液といいます。この工程によってサーモンに均一な下味がつき、またアルブミン(焼魚の表面にたまに浮いている白いぶよぶよ)が抑えられ、仕上がりがきれいになります。

ブライニング液に45分間つけ込みます。またこの際、安全のためブライニング液の温度は5℃以下を保つように気をつけましょう。 

とりだしてキッチンペーパーで表面の水気を拭き取ります。

和久田シェフのお店ではハーブや塩などでマリネした鮭をバットに並べ、ひたひたのオリーブオイルに浸してスチームコンベクションオーブンで加熱していますが、今回は袋を使います。原理は一緒です。

オリーブオイルを袋にいれます。これは袋から空気を追い出しやすくするためです。

40°Cで1時間湯煎します。この時、ふくろの口は閉じないようにしまし ょう。水圧によって空気が追い出されるからです。空気は非常に熱伝導が悪いので、空気がはいるとその部分だけ熱が入りません。80°Cの湯につかれ ば火傷をしますがサウナなら平気、というのと同じ原理ですね。

今回は40℃で加熱していますが、個人的には45℃で加熱した方が好みです。40℃は刺身より、45℃は中間、50℃で火が入った感じに仕上がります。

ともあれ1時間経ったので、とりだして冷却します。冷蔵庫で6時間ほど寝かします。冷やすことで塩分が浸透し、サーモンはさらにしっとりします。ちなみにこの状態で三日ほど保存が利きます。

わさび醤油でもいいのですが、今日はソースを添えてみます。今日はクレソンのピュ レにしました。バジルや春菊でもかまいません。

クレソンを二束用意します。右にうつっているのは『キサンタンガム』です。こうい う添加物を使うと分子料理っぽくなりますが、ただのとろみつけなのでなく ても平気です。

食品グレードのキサンタンガムはamazonなどで購入することができます。(参考リンク)常温でとろみをつけられるのが特徴。

クレソンを茹でて、氷水で色止めします。

茹でたクレソンに少々の水と氷を入れてミキサーにかけます。氷をいれるのは攪拌によって温度が上昇して色が悪くなるのを防ぐためです。

この状態ですとさらさらしているので、キサンタンガムと適量の塩を加えてさらにミキサーを廻します。キサンタンガムはスペインではチャンタナと呼ばれていますが、グル テンフリーのとろみつけ材料としてよく使われています。(天然由来の食品添加物で、 安全性も証明されています)

キサンタンガムは入れすぎないように、材料の1%ほどが目安です。溶けにくいのでできたら塩や砂糖などの他の粉末調味料と混ぜるとダマになりにくいです。

ソースができあがりました。キサンタンガムをつかった理由はこの鮮やかなグリーン を長持ちさせるため。もし、キサンタンガムがなければ片栗粉などでとろみをつけた水とクレソンをミキサーで廻せばいいだけのことです。

サーモンはしっとりと火が入っています。まさに火が通った生の状態。滑らかなテク スチャーです。表面の油はペーパーで拭き取りましょう。ちなみに油はオリーブオイルを使いましたが、なんの油でも大丈夫です。コンフィの説明によく『コンフィにす ることで油がしみこんでしっとりする』という説明がかかれていますが、油の分子はかなり大きいので材料のあいだに入り込むようなことはありません。

サーモンには火が入っているので、ナイフをいれるとほろりと崩れますが、生のようなやわらかい食感。

和久田シェフは塩昆布で味をつけますが、今回は塩漬けにした胡椒をふりました。塩 レモンでもいいですし唐辛子などもあいます。

さて、盛りつけです。中心にクレソンのピュレを敷き、

つけ合わせにはセロリのサラダを添えました。刺身につまが必要なようにシャキシャ キした食感の野菜があると魚の味が引き立ちます。また魚の旨味、クレソンソースの 甘みに、酸味を加えたいという理由もあります。

セロリでなくても大根の千切りでもいいでしょうし、アンディーブ、白菜などもあいます。野菜は塩、こしょう、レモン汁、オリーブオイルで味付けしました。ハーブを添えます。いずれにせよ皿の余白を活用するのが最近の流行です。滑らかな食感の サーモンは40°Cで加熱し、高くても55°Cを超えないようにすること。これを憶えて おけば他の魚を調理するときにも応用できます。

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樋口直哉(TravelingFoodLab.)

樋口直哉 作家・料理家 主な著作として小説『スープの国のお姫様』(小学館)ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)など。新刊『新しい料理の教科書』が1/17日に発売されました!

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