見出し画像

リゾットの基本解説

さて、今日のテーマはリゾット。

1.お米の選び方

どんな品種の米を使うのがいいのか、という問には明確な答えはありません。スープを多めにしたゆるい感じの仕上がりにしたいのか、ぼってりとさせて米の味をしっかりと感じさせたいのか、それによって用いる米が異なるからです。

米の個性はアミロースとアミロペクチンという二種類の澱粉の比率によって決まります。アミロペクチンが多いと粘りが強く、米の内部も表面もよく水分を吸い込みます。ただし、米粒が崩れやすいという弱点も。。

逆にアミロースが多い品種はさっぱりとして、粘りが少ないのが特徴。形もよく保ちますが、弱点はスープを含まないこと。以下、代表的な品種と特徴を並べてみます。

アミロースが低い米=アミロペクチンが多いお米 
ゆめぴりか、ミルキークイーン、たきたて、ぴかまる コシヒカリ、はえぬき
中間的な性質(アミロース含有量が16~17%)のお米
あきたこまち ふっくりんこ つや姫 ひとめぼれ
アミロースが多い品種
ななつぼし ササニシキ きらら397

例えば北海道の『ななつぼし』はアミロース含有量が19%と高く、形を保って欲 しいライスサラダやパエリアといった料理に向いています。

ただ、単純にアミロース含量量だけでは判断できない部分も。

例えば写真、左上の長粒米がそうです。長粒米のアミロース含量量は22%と高いのですが、スープを含まないのでリゾットには不向き。

カルナローリというリゾット専用のお米もあります。写真下の丸っぽいお米ですが、アミロースの含有量は24%で、米粒のテクスチャーがしっかりしています。米の味をストレートに出したいのであれば最適の品種でしょう。

イタリアンレストランのなかでは右上のこしひかりを使っているお店も多いよう。スープの味を強調したい場合には最適な品種です。

本場イタリアスタイルの重めのリゾットを作る場合はカルナローリ、日本風のスープの出汁が効いた軽いリゾットをつくるならコシヒカリという具合にお米の種類は求める仕上がりによって選ぶが吉。

さて、次は実際にリゾットをつくりながら説明してきます。

パルメザンチーズのリゾット
オリーブオイル 大さじ2(約20g)
玉ねぎ 65g(小1個 普通サイズなら半分)
米 100g
白ワイン(opition) 50cc
ブイヨン 600cc(水にブイヨンキューブ1個を溶かす)
パルメザンチーズ 20g

米の品種は入手しやすいコシヒカリを使用しました。米は洗わずに使う、というのがリゾットのセオリー。米を洗うと表面の層とデンプンが流出するので、洗わないほうがよりクリーミーな仕上がりになるからです。 

つまり、さらっとした仕上がりにしたければ洗う、という選択肢ももちろんあり。その場合は洗った後、30分ほどざるにあげて水気を切っておきます。洗うと米が割れて、ぐちゃっとしてしまう、という意見がありますが、 米が割れるのには別の原因があります。それは後ほど。

玉ねぎの量を少なめにしています。玉ねぎの甘味が強くなりすぎるとくどくなるからですね。そういえばイタリア料理界の巨匠、マルケー ジさんのスペシャリテ、黄金のリゾットの作り方は最初に玉ねぎを炒めずに、最後に玉ねぎバター(玉ねぎを軽く炒めて白ワインで煮詰め、ミキサーにかけたもの)が入ります。白ワインの酸味で玉ねぎの甘さを抑えているわけですが、甘味が必要なければエシャロットを使うのもオススメです。

大事なことは玉ねぎの大きさ。米粒よりも小さく切るのがポイントです。あくまでタマネギは脇役。米より目立ってはいけません。

今日は手軽に市販のブイヨンキューブを使っています。使った製品は味の素のコンソメで す。メーカーによって塩分に差がありますので水の量を調整するなどして対応しますが、後から煮詰まるのでこの段階ではかなり薄めにしておく必要があります。

材料が準備出来ました。ブイヨンは熱い状態を維持しておきます。

オリーブオイル大さじ2と玉ねぎのみじん切りを入れて、鍋に火をつけます。火加減は中火です。音が出はじめたら弱火に落とし、3分間程度、玉ねぎを色づかないように炒めていきますが、ここで「強めの火加減で短時間の加熱に抑える」というシェフもいます。さきほど玉ねぎの甘味が増えるとくどくなると説明しましたが、やや中火くらいで加熱したほうがすっきりとした仕上がりになります。このあたりは好みです。

米を加えて、米粒が白っぽくなるまで炒めます。

米を炒めることで仕上がりにどんな差が出てくるか?

さて、米はよく炒めるべきなのでしょうか。米30gと水300ccで比較しました。まずは米を炒めた場合。

米を炒めてから水を加えるとこんな風に粒が立った仕上がりになります。次は炒めなかった場合です。

こちらは米とスープの一体感があり、クリーミーな仕上がりになりました。ただし米は柔らかめ。

以上の実験から炒めることによる米粒のテクスチャーとスープのク リーミーさはトレードオフの関係にあることがわかります。この実験は次回以降、完璧なリゾットのレシピを考えるヒントになりそうですが、とりあえず今日は炒めると米粒がしっかりとした食感になることだけを覚えてください。逆に炒めることでクリーミーさは失われるので、例えばライスプディングのような料理をつくるときには米は炒めないのがベターというわけ。

お米の表面が白っぽくなったら白ワインを加えます。アルコール分をしっかり飛ばしましょう。白ワインはチーズの濃厚さにさっぱり感を与えるために加えるので、辛口のものを選びます。

ここで普通の白ワインではなく、ベルモットやヴァン・ジョーヌを加えることで、仕上がりの風味に差をつけることができます。

ブイヨンは少しずつ加えるべきか? 問題

さて、ワインのアルコールが飛んだらブイヨンを注ぎます。

多くの料理書には『水分が減ってきたら熱い状態のブイヨンを少しずつ加える』と書かれていますが、ブイヨンを少しずつ加えて沸騰状態を15分間維持したものと、熱いブイヨンを一気に注いで、沸騰状態を15分維持したものを比較した結果、仕上がりにはまったく差がありませんでした。つまり、ブイヨンを少しずつ加えるのはまったくのナンセンスです。

ブイヨンは一気に加えて大丈夫。ただ、水分量に注意すればいいだけです。

〈4/10加筆〉

ブイヨンを一気に加えるメリットはかき混ぜる回数が減ること。というのもかき混ぜると米の表面が溶け、デンプンが溶け出てしまい、重たい仕上がりになってしまいます。特に日本のお米を使う場合は米の表面がやわらかいため注意が必要で、あまり混ぜすぎないほうが上手にできます。

リゾット、提供に時間がかかりすぎる問題

この問題を解決するには半加熱の状態まで仕込んでおくのがオススメ。

時々、かき混ぜながら10分ほど煮て……

七分どおりに火が通ったところで加熱を止めます。

ここでざるにあけて、スープと米をわけるのがポイント。

米はバットなどにうつし、氷水にあてるなどして冷まし、冷蔵庫で保管しておきます。ちなみに、この状態でも米の糊化は若干、進みます。半分程度火を通した米を冷やすことによるメリットをハロルドマギーさんはこう説明しています。

『この方法では加熱された米の澱粉の一部が硬化し、充分に火を通した米
を再加熱するよりも弾性が出る』

この作り方ですと事前にスタンバイしておけるので、たくさんの皿を提供する場合のオペレーションで有用です。

仕上げるときは鍋にこちらのスープを沸かし、冷蔵庫からとりだした米をあわせて加熱します。

この後の加熱時間は3分間が目安です。はじめに10分火を入れて、冷ましました。そのあいだは1分間煮たのと同じくらい糊化が進むので、さらに3分間加熱するとトータルの加熱時間は14分ということになります。コシヒカリの場合は14分〜15分くらいでアルデンテです。

このアルデンテがどういう状態を指すのかは人によって見解が異なります。芯がある状態といいますが、芯が残ったご飯は美味しくはないので注意。アルデンテが強調されるのは火を通しすぎる失敗を減らすためだと推測できます。

弾性に富んだ米粒の周りにゼリー状のスープが絡みついた状態が理想。前の段階で米を冷やすことで、米粒の弾力を上げることができるというのもこの作り方のメリットです。

いずれにせよアルデンテの状態になったら火を止め、パルメザンチーズを混ぜ込みます。ここで、バターを入れてもOK。そういえば巨匠、マルケージはチーズとバターをいれたら混ぜずにラップをかけて米を蒸らすのが秘訣だ、と語っています。

これでパルメザンチーズのリゾットの出来上がり。仕上がりのイメージにあわせて米 を洗うか、洗わないか、または米を煮るときにもっと混ぜればいいかという工程をひとつひとつ判断する必要があることがわかるか、と思います。

ちなみにチーズの量をもっと控えめにして、仕上げに冷凍グリーンピースと冷凍エビ、刻んだミントを混ぜ込み、最後にレモンを絞ったリゾットもなかなか美味しいです。とにかく基本のリゾットの作り方を覚えれば応用は自由自在。色々と試してみましょう。

撮影用の食材代として使わせていただきます。高い材料を使うレシピではないですが、サポートしていただけると助かります!