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小話『ツバメのメノウ』

鳥の国のツバメ族第一王子であるメノウは、複数の追手から逃れていた。
真っ黒な仮面を付けた鳥の集団は何の種類かもわからない。ただ、自分達ツバメよりは少し大きくて、猛禽類よりは小さい。

「今回はしつこいな」

かれこれ二時間ばかり逃げ回っているが、気がつけばどんどんとツバメの王宮から離れてしまっている。常々、第二王子をツバメ族長に願う派閥から命を狙われてはいたのだが、こうして白昼堂々襲われることになるとはさすがのメノウも予想外であった。三羽ほどいたお付きのものは早々に襲われて、残ったのは自分だけ。同族のツバメに襲われるならまだしも、種族のわからない鳥類に攻撃されたら、小さなツバメはひとたまりもない。

「助けを呼ぶ暇すらないし」

連絡をしようにもどこかに止まってしまえば襲われるのはわかっている。そして、もし自分の不在の間に王宮全体が第二王子派に乗っ取られてしまっていたら、無理して王宮に帰るのは危険でもある。どうしてか、潔く死ぬという選択肢はメノウにはなかった。この世に生まれてきた以上、自分には生きる権利があると思っていたからだ。

そして、脳裏に浮かぶのは婚約者のフランシーヌのこと。自分亡き後、彼女がどうなってしまうのか。フランシーヌは体が弱く、今はプロヴァンスで静養中だ。体調を崩したという彼女に会いに行った帰り、今回の襲撃に遭ったのだ。

元々、ツバメは旅する種族で、渡り鳥だから飛翔力は強い。体の小さいメノウよりもちょっと大きめな鳥類である相手の方が少し疲れてきたようだった。しばらく飛び続けていると、人間の住む大都会の建物が見えた。クラクションの音や人の笑い声が空高くまで聞こえてくる。あの繁華街のなかに入ってしまえば容易に襲われないだろう。あたりを見渡せば、高層マンションの側に少し低めの建物があった。外付け廊下の個所から建物に入り込めば身を隠せるかもしれない。

「日も傾いてきているし、あそこに入ろう」

メノウは低めのマンションに定めて急降下するため大勢を変え、住宅のベランダに隠れようしたのだが・・・急に左の翼に激痛を感じた。どうやら追手が小石を投げてきたようだ。相手は繁華街に入られる前に決着をつけたいらしい。メノウは仕方なく高度を上げてマンション付近から距離を取る。ジンジンと痛む翼に、このままではやられる、とメノウが覚悟を決めた時、バサバサと大きな羽音が聞こえた。

「お前ら何やってんだ」

茶色い羽を広げる白頭鷲ぐらいの大きさの鷹が飛んでいた。いや、飛んでいたというよりも、浮いているに近い。必死に翼を動かしているメノウや追っ手と違って、何もせずに宙に浮いている。メノウはもうダメだ、今度は喰われるかもしれないと俄かなるパニックに陥っていた。己の翼から流れる血の匂いがそれに拍車をかける。

「一羽に対して二十羽か、フェアじゃねぇなぁ。俺はフェアじゃねぇのは嫌いなんだよ」

敵なのか味方なのかわからない。はっきり言って、何だかさっぱりわからない状況だが逃げるのは今だと、メノウは別のマンションに定めをつけて降りようと向きを変えた。すると、黒の集団の何羽かが隙を見て飛び抜けたメノウを追いかけるため、二手に分かれる。

「お前ら、まったく話を聞いてなかったのかよ」

と、鷹が嘴か白い煙を吐き出した。その白いものが急に大きく広がって、メノウに近づいていた黒い仮面の追手たちをすっぽり包み込んだ。すると、何故か包み込まれた追手たちが、一羽ずつボトボトと地面に落下していった。
メノウは思った。この鷹、鳥じゃないと。

「俺、言ったよなぁ。フェアな戦い方をしろって」
「あなたは一体何者ですか。彼らに何を?」
「敵の心配してねぇで、どうするか考えな」
「何をですか」
「怪我してるんだろ? 俺と来るか、ここであいつらの残党にやられるか」

フランシーヌのこと、翼の怪我のこと、ツバメの王宮のこと、殺された従者のこと、色々なことが頭の中を駆け巡る。でも、メノウはこの得体の知れない口の悪い鷹に己の人生をかけてみようと思った。

「あなたと行きます」
「よっしゃ、なら背中に乗れ。パンとぶつかって止まってもいい。ちゃんと捕まってろよ」

メノウは鷹の背にゆっくりと近づき、両足で羽毛を掴む。それを確認したらしい鷹は沈みゆく太陽に向かって羽ばたいた。

《終》


◇あとがき◇
eve「あら、パット!お友達連れてきたの?」
パット「友達じゃねえよ、怪我してるから見てやってくれ」
eve「まぁ、ツバメさん、羽に怪我して、まさかあなたが齧ったんじゃないわよね!」
パット「そんなことするかドアホ」
eve「大丈夫よ、ツバメさん。あの下品な鷹は放っておいて、こちらで治療しましょうね。お腹空いた? 」
パット「あぁ、腹減った。飯は何処? 」
eve「何言ってるの! ご飯ぐらい自分で用意しなさい!」
メノウ「(ここでの最強って、実はこの女の人?)」


◎ちなみにこちらは、このお話から生まれたメノウとフランシーヌをモチーフにしたオーナメントです♪

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