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モノトーンでディストピアを描く異色の百合短編『荆棘落尘埃』

※中国語のみ
『荆棘落尘埃』(Dust On Thorn)はモノクロの画面で理不尽な世界を描く短編ノベル。ある日突然権利を剥奪された主人公が、分岐する物語でそれぞれ異なる少女と出会う。すこし百合要素の入った物語で、出会う状況も違えば個性も異なりどの物語でも二人の淡い信頼関係に引き込まれる。少しずつ明らかになっていく真実と写実的な背景による仄暗く繊細な世界観が魅力の作品だ。

主人公の时茜はある日突然、管理局の人間に取り囲まれてこの都市の最下層、D層へと送られる。人工照明のもと快適に整えられたA層から一転、D層は雑然としていて光も届かない。管理局がこの都市すべてを監視しているため、A層へ戻ることは不可能だ。これからどうすればいいのだろうか……。

無機質でモノトーンな背景がこの世界の冷たさを伝えていて、メッセージウィンドウに添えられた市の徽章と宋体のフォントが簡潔で美しい。孤独な世界観と主人公の静かな語りによる地の文がよくあっていて、暗く静かな世界がこのゲームにしかない魅力を生み出している。

いばらを象ったシナリオチャート。物語を読み進めると赤く染まっていく。

そんな中で出会う少女たちは異なる立場と個性をもっていて、ルートによって主人公の違った側面が見えてくる。すこしずつ近づいていく二人の距離感が気になる一方でこの世界をめぐる真実も迫ってきて、選択を迫られる中で動いていく二人の関係とその結末が強く印象に残る良作だった。