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最近ノベルゲームが面白くなってきていると思いませんか?

ノベルゲームはいつでも比較的ニッチなジャンルだ。最近は売り上げが落ち着いてきた、なんて話も聞く。一方でいちユーザーとしては、今ノベルゲームが面白いと思う。美少女ゲームが新たな試みを始めただけでなく、世界的にノベルゲーム(ビジュアルノベル)が作られ日本でも遊べるようになってきた。
日本の作品から世界のものまでとても面白い作品が作られているので、これらについて順に紹介していきたい。

美少女ゲーム

成人向けの美少女ゲームを作ってきたメーカーがその方法論で全年齢向けのゲームを作っている。ゆずソフトは新ブランドゆずソフトサワーを立ち上げ、ニトロプラスは18禁作品をニトロオリジンとしてのれん分けした。また、あのANIPLEXがANIPLEX.EXEとして、特にノベルゲームにこだわったブランドを立ち上げて最初の二作も好評を得た。

それらが面白いのは作風がこれまでとは明確に異なる点だ。パステルカラーで統一され、美少女が勢ぞろいしたよくあるビジュアルとは違うとがった作風になっている。『桜花裁き』(オリジナルは成人向け、移植版が全年齢)のやや漫画風なデザインや『マルコと銀河竜』のカートゥーン調のビジュアルはおや、と思う引きの強さがある。

さらに、Steamでの英語・中国語版の発売と小規模低価格という特徴もある。海外でもノベルゲームの需要は小規模ながら存在し、ダウンロード販売の普及でリーチできるようになった。また、低価格の短編は手にとりやすく読みやすいので、時代に合わせた形と言える。

OOPARTSというサービスも衝撃的だった。昔の美少女ゲームがブラウザ上で平然と動いてしまう。なんならスマホでも遊べる。”わかっている”ゲーム選びも話題になった。
OOPARTSはビジュアルノベルをクラウドで遊べるサブスクリプションサービス。つまり定額の利用料を支払えば、期間中はPCでもスマホでも対応機種の壁をこえて好きなだけ遊べる。
なにしろ美少女ゲームは作品数も、それに関する知識も膨大だ。批評空間や個人の感想ブログを見れば、どんなマイナーな作品でも何かしら感想が残されている。それらを参考に”隠れた名作”を探すのも楽しみの一つだろう。

また、各種ダウンロードサイトでは往年の名作が廉価でダウンロード販売されている。この場合は対応の記述がなくとも大抵のOSで動作する(もちろん保証はできないが)。定期的な大型セールではさらに手ごろな価格になるので、手元に置いておきたいお気に入りのゲームは単体で買うのもおすすめだ。

インディーゲーム(日本)

今日のインディーブームの前に、日本には同人ノベルの文化があった。『月姫』『ひぐらしのなく頃に』については言うまでもないが、他にも『ひまわり』『灯穂奇譚』などがある(どちらも成人向けだが前者は全年齢版あり。現在はダウンロード販売で購入できる)。

日本のインディーノベルゲームでは見逃せない作品が3つある。『ファタモルガーナの館』fault - milestone one』『シロナガス島への帰還』だ。
『ファタモルガーナの館』はサークルNOVECT(当時Novectacle)による悲劇の物語。日本での人気もさることながら海外では『うみねこのなく頃に』と並んでトップクラスの人気を誇り、一時はメタスコアが100点になり話題になった。

faultシリーズはサークル「ALICE IN DISSONANCE」による連作ファンタジービジュアルノベル。架空戦記、魔法などの王道西洋ファンタジーを基礎に論理的な設定で舞台を組み上げ、その上で熱いドラマを展開させた傑作だ。

『シロナガス島への帰還』鬼虫兵庫さんによる個人作品。一人ですべての世界を作り上げ、往年のアドベンチャーゲームやサスペンス映画の精髄を応用したシナリオと演出で多くのゲームファンを唸らせた。

いずれ劣らぬ名作揃いなので、まだ遊んでいない方は是非プレイしていただきたい。

フリーゲーム(日本)

フリーノベルゲームは2000年頃からの美少女ゲームブームと同時に盛り上がり、ひとかた(2001年)、天雨月都(2004年)、TRUE REMEMBRANCE(2006年)、冠を持つ神の手(2009年)など多くの名作が作られ好評を博した。
その後もほん呪! durbbing girls revival festシリーズ(2009年~)、アサルとスパイ(2012年)、夏ゆめ彼方(2017年)、死月妖花~四月八日~(2019年)など今に至るまで作品が作られ続け、コミュニティも確立された。

また、新しい動きとしてノベルゲームコレクション、通称ノベコレがある。シケモクMKさん個人によって運営されているプラットフォームで、詳細は割愛するがサイトの見やすさ、使いやすさが群を抜いている。
毎年開催されるティラノゲームフェスも活況を呈しており、夕暮倶楽部』『深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to』『じごくのインターネッツといった名作が生み出されている。ブラウザやスマホでも遊べるので、気軽にフリーゲームの最前線にふれてみてほしい。

英語のビジュアルノベル

英語圏には少数ながら熱心なビジュアルノベルファンが存在する。RedditのVisual Novelsには日夜日本のノベルゲームに関する大量の書き込みがあるし、TwitterでもVisual Novelで検索すれば濃いファンがいることがよくわかる。

ここで一つ断っておくと、英語圏ではVisual Novel(s)という表現が一般的だ。かつては恋愛シミュレーションを指してDating Simと呼んでいたが最近ではこれが定着、VNと略されている。

『装甲悪鬼村正』や『うみねこのなく頃に』、『ファタモルガーナの館』などがとても人気で興味深いのだが、日本のユーザーとしては英語圏で作られたビジュアルノベルが面白い。ビジュアルノベルの網羅的なデータベース「The Visual Novel Database」(VNDB)を見るとその歴史は古く、1980年の『Mystery House』にまで遡る。

しかし今注目したいのは2010年代から今に続く流れだ。2012年には『Katawa Shoujo』がリリースされ日本でも話題になった。同年Analogue:A Hate Story』『Juniper's Knotなどの名作が作られ、それまでゲームではないとされていたビジュアルノベルが認められていくようになる。英語圏オリジナルのゲームエンジンRen'Pyの存在も大きい。

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『Juniper's Knot』より

Doki Doki Literature Club!はあまりにも有名だが、その他にも風刺画を引用した裁判ADV『Aviary Attorney、シングルファーザーたちのロマンスを描いたDream Daddy: A Dad Dating Simulator、アジア系アメリカ人の少女たちを野球をテーマに描いたButterfly Soupなどがある。ジェンダーやマイノリティをテーマにしたものも多い。

また、英語オリジナルのビジュアルノベル(English Original Visual Novel)は個人で開発されItch.ioにて公開されることが多い。特に毎年開催されるビジュアルノベルのゲームジャムNaNoRenOは象徴的な存在だ。開発期間は1ヶ月で、歴代のイベントページもアーカイブされている。

そしてitch.ioの英語作品では「インタラクティブフィクション」という新しい表現も生まれつつある。これはテキストを基本にしながら決まった形を持たず、ものによってはhtmlだけで作られたりする。先鋭的な表現手法のものが多く、現代の複雑な心理をテーマとすることが多い。例としては『Adventures With Anxiety!』『PINK』『can you say my name againなど。

中国のビジュアルノベル

中国のビジュアルノベルが今盛り上がりを見せている。第一のブームと言えるのが2000~2010年代前半で、刻痕系列、本镜系列、鸑鷟系列、叙事曲系列といったシリーズ物の良作が作られ一時代を築いた。そして2014年の『高考恋爱100天』がひとつのメルクマールとなり、2017年『三色绘恋』が最高の評価を獲得する。

*こちらを参考にさせていただきました。

それ以降今に至るまで開発者・プレイヤーのコミュニティ双方が熱量高く拡大し続けている。話題作に事欠かないのだが、いくつか挙げてみると百合で有名な白露社の寄甡、ポップなデザインが際立つ章鱼罐头制作组の七人杀阵、中国ノベル界の大御所落叶岛项目组と橘子班による小白兔电商などがある。

『浊之铃』より

また、日本語で遊べるタイトルとしては、片岡ともさんがシナリオを担当した日中合作の泡沫冬景 (Christmas Tina)、致意さん作、陽炎さん訳の距离男主自杀还剩七天(僕たちが死ぬまであと七日)、小説原作のサスペンス大作妄想症: Deliver Me(Paranoia: Deliver Me)などがある。
その盛り上がりを反映して「中文恋爱游戏大奖」(旧CNGAL美少女游戏大奖)というアワードも設立された。ノミネート作品はクリエイターとプレイヤーから成る審査員により選出され、その後プレイヤーの投票によって最優秀賞と各部門賞が決定される。まさに年に一度のお祭りだ。

ついでながら界隈でのビジュアルノベルの呼称は视觉小说、文字游戏、galgameなど。特に中国のビジュアルノベルを指す場合は国产galgame/国产gal/国Gが使われるようだ。

韓国のビジュアルノベル

韓国でもやはり2010年代前半から、主にAndroid向けに様々なビジュアルノベルが作られたようだ。ただし現在では配信終了したものも多く、そもそも日本のアプリストアになかったり翻訳されていなかったりで遊ぶのは難しい。(韓国のゲームに関しては나무위키(ナムウィキ)という驚異的なWikipediaにだいたい情報がある。)https://namu.wiki/w/%EB%B6%84%EB%A5%98:%ED%95%9C%EA%B5%AD%20%EB%AF%B8%EC%86%8C%EB%85%80%20%EA%B2%8C%EC%9E%84

티어즈 아홉 개, 열 개(Tears 9, 10)と『루시 - 그녀가 바라던 것 -』(ルーシィ ~彼女が望んでいたもの~)は当時のゲーム(のリメイク版)がSteamで日本語翻訳され配信されている貴重な例。

そんな中、2012年から現在までノベルゲームを作り続けているのがTalesshop。日本語や英語に翻訳されているものもあり、韓国のノベルゲームと言えばまずここだろう。

ややアドベンチャー寄りになるがSomiさんの罪悪感三部作は有名だし、決断と選択によって生き抜く『7Days Origins』も評価が高い。H5DEV Gamesの人狼的ホラーノベル『노베나 디아볼로스』(Novena Diabolos)は一作目にもかかわらず非常にクオリティが高く、コミュニティの充実ぶりがうかがわれる。

台湾のビジュアルノベル

台湾のビジュアルノベルは数こそ少ないもののクオリティが安定して高く、ありがたいことに翻訳される(そして良質な翻訳である)ことも多い。おそらく日本で一番よく知られているのはメディアミックスプロジェクトを展開している希萌創意(SimonCreative)とデベロッパーNarrator/Storia だろう。両者の共作には『食用系少女』や『東津萌米 穂姫』などがあり、どちらもシミュレーション要素を含むゲームだ。希萌創意はロリダークソウルこと『Little Witch Nobeta』で知っている人もいるかも。

Erotes Studio(艾蘿塔斯工作室)も日本語に対応してくれる貴重なデベロッパー。明るいエンタメの中に台湾の歴史が織り込まれているのが特徴。

その他輕小說家・小鹿さんによるビジュアルノベル『湛藍牢籠』(Rail of Möbius)や『晴天咖啡館』など。

ロシアのビジュアルノベル

実はビジュアルノベル大国であるロシア。翻訳が少なく情報もほとんど入ってこないが、リリースされた作品数では中国に迫る(もしくは追い抜く)勢い。有志翻訳も盛んなようだ。特に有名なのはNikita Kryukov さんの『Milk Inside a Bag of Milk Inside a Bag of Milk』『Milk outside a bag of milk outside a bag of milk』

また、古参スタジオSoviet Games(旧Erogame Project)による『Бесконечное лето』(Everlasting Summer)もよく知られている。久しぶりの新作『Любовь, Деньги, Рок-н-Ролл』(Love, Money, Rock'n'Roll)も人気。

ロシアのコミュニティは主にVK(ロシアのSNS)らしく、これは登録しないと見ることができない。ただ、ウクライナの情報サイト「Anivisual.net」でそのあたりを垣間見ることはできる。

Lobotomy Corporation のファンゲーム『Love Corp』。現在ロシア語のみ。

ノベルゲームを探すならVNDBがとても便利。このデータベースはオリジナルの言語と対応言語の両方を指定することができ、例えば日本語に対応した韓国語のゲーム、あるいは英語に対応した中国語のゲームを調べたりすることができる。SteamからItch.io、スマホアプリまで登録されているから驚きだ。

サイドメニューのVisual NovelsをクリックしてLanguageとOri languageで絞り込み。
display optionsで表示方法や並べ方を変更することもできる。