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ハリアー戦闘機事件

こんにちは。

 日本のコーラーのCMで、東京オリンピックのチケットを当てるためにお父さんがコーラを買い込む姿をみて、娘が「いまさらムリムリ」とあきらめていたけど、いざお父さんがチケットを当てると娘が手のひら返しをして大はしゃぎしたことについて「後味がすっきりしないなあ」と炎上したことがあるようですね。

 さて今日は、アメリカでペプシコーラの景品をめぐって裁判となった「ハリアー戦闘機事件」(Leonard v. Pepsi-co, Inc. 88 F. Supp. 2d 116(S. D. N. Y 1999), aff'd, 210 F. 3d 88 (2d Cir 2000))を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 アメリカのペプシコ社は、ペプシコーラを買った人にポイントを付与し、「君も700万ポイントを溜めれば、アメリカ海兵隊が運用するハリアー戦闘機と交換できる」とのCMを流していました。すると、ワシントン州の大学で経営学を学んでいたジョン・レナードは、何としても戦闘機を手に入れようと、ポイント交換の最低条件となるペプシコーラ36本を購入し、足りないポイント分のコーラを購入するために、70万8ドル50セントと書かれた小切手をペプシコ社に送りつけて、ハリアー戦闘機との交換を求めました。ペプシコ社は、これを断ったことから、レナードはニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提訴しました。

2 レナードの主張

 CMでは、ペプシのロゴの入ったTシャツを着た少年が外出し、「Tシャツ75ペプシポイント、革ジャケット1450ペプシポイント、サングラス175ペプシポイント、バリアー戦闘機700万ペプシポイント」という字幕が流れていた。このような消費者を広く対象にしたCMには拘束力があるので、即刻景品のハリアー戦闘機を引き渡すべきだ。
 キャンペーンのシステムでは、ペプシコーラ24本で10ポイント、15ポイント以上を貯めた場合には、景品交換に足りないポイントは、1ポイントを10セントと換算して現金でも支払っても良いと規定にあったじゃないか。私は、どうしてもハリヤー機が欲しかったので投資家らを説得して、70万ドルの調達に成功して応募している。いまさら、後戻りはできない。

3 ペプシコ社の主張

 確かに契約は申込みと承諾で成立するが、CM自体は申込みではないぞ。詳細はペプシカタログにはっきりと書いていたからね。考えて見ろ、700万ポイントだぞ。途方もない数のコーラを買わないといけない非現実的な数字で、これは広告にユーモアとインパクトを出すためのジョークなんだよ。だから、おまえさん

に提示したカタログのリストや交換フォームに記載された景品のみを利用できるというわけだ。

4 ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の判決

 ペプシコの広告は契約には該当しない。また、キャンペーンの内容と景品交換方法を明示したカタログの中に、ハリアーは含まれていない。自動車や衣服、あるいはビール、ポテトチップスを購入した消費者が、魅力的でスタイリッシュな、羨望や賞賛を集める存在になるという、大げさな誇張が行われるのは普通のことであり、分別のある視聴者はその内容を冗談だと理解し、事実と捉えることはないだろう。さらに、交換に必要とされる700万ペプシポイントの蓄積には、とても飲みきれない数量のコーラが必要であり、実際のハリアー機の購入には2300万ドルを要し、レナードはこの事実を資金調達の段階で把握していた。仮に正しい価格を知らなかったとしても、70万ドルと軍用機を交換することはあまりに不当な取引内容で成立し得ない。
 よって、ペプシコは、ジョン・レナードにハリアー戦闘機を景品として支給する義務はない。

5 日本では心裡留保の問題

 今回のケースで裁判所は、ペプシコーラのCMから、分別のある視聴者は実際に戦闘機がもらえるとは考えず、またハリアー機分のポイントを貯めるには2300万ドルかかるところを70万ドルしか用意できていないので、契約は成立していないとしました。
 日本では、民法93条により、契約の相手方が冗談で意思表示をしていることを知っている、あるいは通常人の判断で検討すれば冗談だとわかる場合には、契約は無効とされますので、十分に気をつける必要があるでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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