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リクルート事件(文部省ルート)

こんにちは。

 株式会社リクルート創業者の江副浩正氏は、リクルート事件で世紀の大悪党と呼ばれるようになりましたが、歴史的な企業家でもあります。

 さてリクルート事件では、公務員がリクルートから未公開株を受け取っていたことで逮捕、起訴されています。公務員が民間人からプレゼントを受け取ると、法律上何が問題となるのか。この点を考える上で、今日はリクルート事件文部省ルート(最決平成14年10月22日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 株式会社リクルートは、高校の進路指導担当教員に働きかけて、2年生の生徒を対象とした進路希望アンケートに氏名・住所・進路志望校などを書かせて回収し、会社に提供させていました。すると、リクルート社進学情報雑誌が高校生の自宅に直接配達されることにより、生徒に対する適切な進路指導教育が阻害されるということが問題となりました。そこで、リクルートの江副社長は、文部省の事務次官であった高石邦男に対して、リクルートに不利益な行政指導をしないこと、リクルートの役員らを文部省所管の審議会委員などに選任してもらったことの見返りとして、一般人が入手することが極めて困難だった株式会社リクルートコスモスの未上場株式を、1株あたり破格の3,000円で1万株譲り渡しました。
 その後、朝日新聞が「リクルートが川崎市助役へ1億円の利益供与疑惑」という記事を掲載したことがきっかけで、東京地検特捜部は高石邦男を収賄罪の容疑で逮捕、起訴しました。

2 検察側の主張

 被告人は、進学・就職情報誌の配布に関して高校の教育職員が高校生の名簿を収集提供するなどの便宜を与えていることについての対応及びリクルートの事業遂行に有利な取り計らいを受けたことに対する謝礼、今後も同様の取計らいを受けたいという趣旨のもとで供与されるものであることを知りながら、リクルートコスモスの未上場株式を譲り受けて、自己の職務に関して賄賂を収受したのだ。これは、刑法197条1項の公務員が、その職務に関して賄賂を受け取ったり、賄賂の要求や約束をする罪にあたります。

3 被告人の主張

 リクルートの役員が文部省所管の審議会等の委員に選任されたとしても、リクルートにはなんらの利益もありません。また「高校生リスト収集問題」について何ら行政措置を採らなかったという対応を「不作為」としてとらえ、これが刑法197条1項にいう「職務」に当たるものと判断されるためには、「何らかの行政措置を、義務として採るべきか、裁量として採るのが相当か」という作為義務または作為相当性が必要であるにもかかわらず、そもそもそのような作為義務や作為可能性がなかったのであるから、私の対応は「職務」行為に当たらず、無罪となるべきです。

4 最高裁判所の決定

 収賄罪に該当することは明らかである。被告人において積極的な便宜供与行為をしていないことは、収賄罪の成否を左右するものではない。不作為につき職務関連性を認めるためには、何らかの行政措置を採るべき作為義務が存在する場合でなければならない旨主張するが、そのように解すべき根拠はない。よって、被告人の上告を棄却する。

5 不作為も職務行為

 何もしなかったという不作為も職務行為であると最高裁が認定し、上告を棄却したことにより、被告人高石邦男を懲役2年6月、執行猶予4年、追徴金2270万円に処するとする高裁判決が確定しました。
 今回のケースをさらに深掘りすると、1980年代にリクルートコスモスはバブルの影響もあって不動産ビジネスで急成長をしていたこと、リクルートが企業の新卒採用情報をオープンにして広告料収入を得たことで新聞社から目の敵にされていたこと、江副社長が密室で東京地検特捜部検事の凄まじい取り調べなどを受けていたこと、裁判の期間が異常に長期にわたったことなど、当時の日本の状況をよく知ることができる素材がたくさん出てきますので、興味を持った方は是非調べてみてくださいね。

では、今日はこの辺で、また。


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