見出し画像

アデランスvsアートネイチャー事件

こんにちは。

 世の中には、おもしろい特許がたくさんあるのですが、マイケルジャクソンの斜め立ちが簡単にできるキットにも特許がとられていたことにビックリした松下です(今は、特許が切れています)。

 今日は、特許を取得したカツラ用の特殊なピンの使用をしないと和解した後に、その違反が問題となった「アデランスvsアートネイチャー事件」(最判平成6年5月31日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 アデランスは、特殊なカツラピン(櫛歯ピン)を開発し、特許を持っていたのですが、アートネイチャーも同じような仕組みのカツラを提供したことから争いになりました。その後、和解で「アートネイチャーは櫛歯ピンを取り付けた部分カツラを製造販売しない。これに違反した場合には1000万円の違約金を支払う」という合意がなされました。

 しかし、アートネイチャーが再び櫛歯ピンを使ったカツラを製造、販売していたことから、アデランスが違約金1000万円を求めて提訴しました。

2 アデランス側の主張

 我々はアートネイチャー側が和解条項を破っていないかどうかを調査させてもらった。すると、アートネイチャーは、我々との和解で「櫛歯ピンを使ったカツラの製造、販売をしない」と約束していたにもかかわらず、これを破っているという事実が発覚したのだ。従って、当然に違約金1000万円を支払ってもらわねばなりませんなあ。

3 アートネイチャー側の主張

 アデランス側の関係者が、お客さんに成りすまして、我々に対して櫛歯ピンを使ったカツラの製作を強く要望し、そうでなければ解約するぞとすごい剣幕で迫ってきたので、しぶしぶお客さんの要望に応えただけなのです。アデランスは自ら卑怯な手を使って和解を破るように誘導したにもかかわらず、我々が特殊なピンを用いたという事実だけを持ち出して、違約金の支払いを求めてきているので、これは信義誠実に反します。

4 最高裁判所の判決

 原審は、アートネイチャー側に条件成就に該当する行為があったが、アデランス側が条件成就を主張することは信義則に反し許されないと判断した。アデランスの関係者に櫛歯ピン付き部分カツラを販売した行為が和解条項に違反する行為にあたることは否定できないけれども、アデランスは、単に和解条項違反行為の有無を調査ないし確認する範囲を超えて、関係者を介して積極的にアートネイチャーに和解条項に違反する行為をするよう誘引したものであって、これは、条件成就によって利益を受ける当事者が故意に約束違反を誘発して条件を成就させているので、相手方は条件不成就とみなすことができると解するのが相当である。これと同旨をいう原審の判断は、正当として是認することができる。よって、アデランスはアートネイチャーに対して違約金を請求できない。

5 信義則から生まれた新たなルール

 今回のケースで問題となったように、条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときに、相手方はその条件が成就しなかったものとみなすことができるとする規定が、2020年4月1日から施行された改正民法130条2項に置かれています。

 民法1条2項の信義則から新たなルールが形成されるという現象を確認できますね。他にも同様な現象が見られますので、別の動画で紹介していきたいと思います。

 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?