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遺産分割審判事件

こんにちは。

 相続人間で遺産分割協議がまとまらないときには、家庭裁判所の調停を利用することがあります。遺産分割調停では、調停委員が相続人の間に入ってくれて話を整理してくれますが、基本的に調停は平日に行われ、その都度、休みを取らなければならないなど、精神的な疲労が多いですね。

 さて、今日は相続人全員が参加していない遺産分割審判が問題となった「遺産分割審判事件」(東京高決昭和55年4月8日判例時報969号54頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 ナンシー・コモリ・スタンレーは、アメリカ国籍をとり、アメリカに住んでいました。あるとき、共同相続人の小森貞之らが手続をして遺産分割の審判がなされ、ナンシーらにその審判正本が送達されました。しかし、ナンシーらは、期日の通知をしないで行われた遺産分割審判に対して、申立期間が2ヵ月ほど経過した後に即時抗告を申し立てました。

2 ナンシーらの主張

 遺産分割の審判は、共同相続人全員を参加させるべきなのに、私たちはその機会を奪われていたので無効です。また、即時抗告の申立期間を遵守できなかったのは、私たちのせいではないので、申し立てが認められるべきです。

3 小森貞之の主張

 ナンシーらの即時抗告の申し立ては、昭和54年10月23日になされているが、原審判の正本は昭和54年8月23日に送達されていたはずだ。そうすると、即時抗告の申立てができる2週間が経過しているので、即時抗告の申し立てはできないはずだ。

4 東京高等裁判所の決定

 ナンシーの抗告申立は申立期間を経過した後になされているが、その期間不遵守はナンシーの責に帰すべからざる事由によるものと認められるから、原審判正本送達の日から2カ月以内になされた申立は適法である。
 遺産分割の審判は共同相続人全員を当事者として審判手続に関与させてなすべきものであるから、共同相続人の1人又は数人が審判手続に当事者として関与する機会を奪われ、かつ、事実上も本人自身又は適法な代理権のある代理人がその審判手続に関与しなかったときは、このような手続によってなされた遺産分割の審判は違法というべきである。

 よって、原審判を取消し、静岡家庭裁判所沼津支部に差戻す。

5 即時抗告の追完

 今回のケースで裁判所は、アメリカ国籍を有し、アメリカに居住している共同相続人に対して、審判期日の通知をしないまま行われた遺産分割審判について、申立期間が経過していたとしてもその不遵守に責めに帰すべからざる事由があるので即時抗告が適法であるとしました。
 一般的に、遺産分割の審判に対する不服申立ては、「即時抗告」によって行いますが、すでに審判が確定してしまっている場合には、不服申立てをすることができなくなるので十分に注意が必要でしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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