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日興信金事件

こんにちは。

 今日は、債権が二重譲渡され、債務者が誰にお金を支払えばよいかが問題となった最判昭和49年3月7日を紹介したいと思います。


1  どんな事件だったのか

 馬場勝信は、東京都下水道局長に対して補償請求権約2044万円を有していました。中村直仁は馬場からこの債権を譲りけました。馬場は東京都下水道局長に対して、債権譲渡書と題する書面について公証人から2月14日付けの確定日付を受け、14日の午後3時ごろに東京都下水局に持参して、職員に交付しました。これに対して日興信用金庫は、馬場に対して有する約1303万円の債権の執行を保全するために、2月14日に東京地方裁判所から馬場が東京都下水局長に対して有する債権に対する仮差押え命令を得ました。この仮差押命令は、2月14日午後4時5分ごろに東京都下水局長に送達されました。
 そのため中村氏は、日興信用金庫の仮差押命令の執行不許の宣言を求めて、第三者異議の訴えを提起しました。

2 最高裁判所の判決

 民法467条1項が、債権譲渡につき、債務者の承諾と並んで債務者に対する譲渡の通知をもって、債務者のみならず債務者以外の第三者に対する関係に おいても対抗要件としたのは、債権を譲り受けようとする第三者は、先ず債務者に対し債権の存否ないしはその帰属を確かめ、債務者は、当該債権が既に譲渡されていたとしても、譲渡の通知を受けないか又はその承諾をしていないかぎり、第三者に対し債権の帰属に変動のないことを表示するのが通常であり、第三者はかかる債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることがあるという事情の存することによるものである。このように、民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制度は、当該債権の債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、右債務者によつてそれが第三者に表示されうるものであることを根幹として成立しているものというべきである。そして、同条2項が、右通知又は承諾が第三者に対する対抗要件たり得るためには、確定日附ある証書をもつてすることを必要としている趣旨は、債務者が第三者に対し債権譲渡のないことを表示したため、第三者がこれに信頼してその債 権を譲り受けたのちに譲渡人たる旧債権者が、債権を他に二重に譲渡し債務者と通謀して譲渡の通知又はその承諾のあつた日時を遡らしめる等作為して、右第三者の権利を害するに至ることを可及的に防止することにあるものと解すべきであるから、前示のような同条1項所定の債権譲渡についての対抗要件制度の構造になんらの変更を加えるものではないのである。 右のような民法467条の対抗要件制度の構造に鑑みれば、債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日附の先後によ って定めるべきではなく、確定日附のある通知が債務者に到達した日時又は確定日附のある債務者の承諾の日時の先後によって決すべきであり、また、確定日附は通知又は承諾そのものにつき必要であると解すべきである。そして、右の理は、債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においてもなんら異なるものではない。  
 本件において、原審が適法に確定したところによれば、中村直仁は、昭和44年2月13日ころ馬場勝信から、馬場が東京都下水道局長に対して有する2044万9726円の債権を譲り受け、馬場は右債権譲渡の通知として東京都下水道局長宛の債権譲渡書と題する書面に公証人から同月14日付の印章の押捺を受け、同日午後3時ころ東京都下水道局に持参してその職員に交付し、他方、日興信用金庫は、馬場に対して有する1303万9948円の金銭債権の執行を保全するため、同日東京地方裁判所から本件債権に対する仮差押命令を得、この仮差押命令は同日午後4時5分ころ第三債務者たる東京都下水道局長に送達されたというのである。右事実関係のものとおいては、馬場が、本件債権譲渡証書に確定日附を受け、これを東京都下水道局に持参してその職員に交付したことをもつて確定日附のある通知をしたと解することができ、しかも、この通知が東京都下水道局長に到達した時刻は、本件仮差押命令が同局長に送達された時刻より先であるから、中村氏は本件債権の譲受をもって日興信用金庫に対抗しうるものというべきであり、本件仮差押命令の執行不許の宣言を求める中村氏の本訴請求は正当として認容すべきである。  
 しかるに原判決は、民法467条2項は債権譲渡の対抗要件として「確定日附ある証書による通知」を必要とすることを定めた規定であり、右の「確定日附ある証書による通知」とは、債権譲渡あるいはその通知のいずれかについて確定日附があ れば足りるとする趣旨であって、同一債権の譲受人相互の間の優劣は、確定日附として表示されている日附の先後のみを基準として決すべきであると解し、本件債権譲渡証書上の確定日附と本件仮差押命令が第三債務者たる東京都下水道局長に送達された日時とは同一の日であってその先後を定めることができないから、中村氏と日興信用金庫との優劣を決することはできないとして、結局、中村氏の本訴請求を排斥しているが、右は民法467条の解釈を誤つたものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響のあることが明らかである。それゆえ、右の違法をいう論旨は理由があるから、原判決を破棄し、中村氏の本訴請求を棄却した第一審判決を取り消したうえ、その請求を認容すべきである。
 よって、原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

3 債権の二重譲渡と優劣の基準

 今回のケースで裁判所は、債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の間の優劣は、確定日付ある通知が債務者に到達した日時又は確定日付ある債務者の承諾の日時の先後によつて決すべきである、としました。
 ただ、債権譲渡通知書を債務者の住所まで届けるという場合に、日時の証明にはかなりが問題があるのではないかとの疑問が提示されている点にも注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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