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こんにちは。

 内閣総理大臣には衆議院の解散権があるのですが、それぞれの解散に名称がつけられていて、例えば「バカヤロー解散」や「天の声解散」、「ハプニング解散」、「死んだふり解散」、「寝たふり解散」、「神隠し解散」、「森隠し解散」といったギャグのようなものまでありますね。

 さて今日は、「抜き打ち解散」で問題となった「苫米地事件」(最大判昭和35年6月8日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 1952年に、吉田茂総理大臣は、「抜き打ち」で衆議院を解散しました。すると、衆議院議員の職を失った苫米地義三は、歳費として1カ月あたり57000円を受け取ることになっていたのに、それを受け取ることができなくなってしまいました。そのため、苫米地は、衆議院の解散が無効であると裁判所に提訴しました。

2 苫米地の主張

 憲法69条をみると、衆議院において内閣不信任案の可決または信任案の否決があった場合、内閣が10日以内に総辞職しない限り衆議院は解散されるとしている。しかし、今回の解散については、衆議院において内閣の不信任案の可決や信任案の否決もなされていなかったので、今回の衆議院解散は憲法に違反している。
 また、今回の解散について一部閣僚の4~5名のみの賛成署名がなされたにすぎず、他の閣僚の賛成のないまま、その詔書案が天皇に送付され、天皇の署名がなされ、翌日に衆議院議長に伝達されたという経緯だったことから、全閣僚一致の閣議決定とこれに基づく天皇に対する助言がないので、憲法違反と言わなければならない。よって、解散は無効となり、私の衆議院議員の任期が満了するまでの歳費28万5000円の支払いを求める。

【憲法69条】
内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

【憲法7条】 
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

三 衆議院を解散すること。

3 国の主張

 諸外国の判例においては、国会の解散その他の特に強度の政治性を有する一連の行為を統治行為または政治問題と呼び、その争いは裁判所の審理の対象から除外されている。仮に衆議院の解散が判決によって後から無効とされると、解散後の新衆議院を含む国会はどうなるのか、成立した新内閣はどうなるのか、その内閣によって任命される裁判官の地位はどうなるのか、さらには裁判官やその他の公務員が行った一切の裁判や行政行為のすべてが違法となり、社会が大混乱に陥ってしまう。なので、裁判所には衆議院解散の合憲性について判断をする権限はないと考えられる。

4 最高裁判所大法廷判決

 現実に行われた衆議院の解散が、その依拠する憲法の条章について適用を誤ったが故に、法律上無効であるかどうか、これを行うにつき憲法上必要とせられる内閣の助言と承認に瑕疵があったが故に無効であるかどうかのごときことは裁判所の審査権に服しないものと解すべきである。
 わが憲法の三権分立の制度の下においても、司法権の行使についておのずからある限度の制約は免れないのであつて、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。この司法権に対する制約は、結局、三権分立の原理に由来し、当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による規定はないけれども、司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきものである。
 今回の解散が憲法7条に依拠して行われたことは争いのないところであり、政府の見解は、憲法7条によつて、憲法上有効に衆議院の解散を行い得るものであり、今回の解散は憲法七条に依拠し、かつ、内閣の助言と承認により適法に行われたものであるとするにあることはあきらかであつて、裁判所としては、この政府の見解を否定して、今回の解散を憲法上無効なものとすることはできないのである。
 よって、苫米地の上告を棄却する。

5 衆議院の解散は司法審査の対象ではない

 今回のケースで裁判所は、吉田茂総理による衆議院の解散が憲法違反ではないのかとの主張に対して、高度に政治性のある国家行為については裁判所は審査できないとして、苫米地元議員の訴えを退けました。
 裁判所には内閣を審査する権限があるはずなのに放棄させるのはおかしいとの意見や、政治性が高度であるかどうかの判断が難しいとの批判もありますが、現段階では衆議院の解散については司法権は及ばないと理解しておく必要があるでしょうね。

では、今日はこの辺で、また。


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