見出し画像

麹町中学校内申書事件

こんにちは。

 高校時代の自分の調査書を見たことがあるのですが、担任の先生の字の解読に30分以上かかったことがありますね。

 さて今日は、中学校の内申書に書かれていた内容をめぐって裁判に発展した「麹町中学内申書事件」(最判昭和63年7月15日判例タイムズ675号59頁)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 千代田区立麹町中学校に通う保坂展人(ほさかのぶと)氏は、学生運動にのめり込んでいたことから、「麹町中全共闘」を名乗り、機関紙「砦」を発行するなどの活動を行なっていました。すると、中学校の担任の先生が、内申書の「基本的な生活習慣」「公共心」「自省心」について最低のC評価を付け、さらに「校内において、麹町中全共闘を名乗り、機関紙砦を発行したこと、学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで他校生徒とともに校内に乱入しビラまきを行ったこと、大学生ML派の集会に参加していること及び学校側の指導説得をきかないこと」と記述していました。その後、保坂氏は受験した全ての高校で不合格となったことから、不合格の原因が内申書に不適切な記載がなされたことにあるとして、東京都及び千代田区に損害賠償を求めて提訴しました。

2 保坂展人の主張

 私は、ML同盟やその他の過激な政治団体や過激な学生運動と関連を持ったこともないのに、内申書には事実に基づかない記載がなされている。しかも、私にはもはや改善の余地がないから不合格にせよと受け取らざるを得ない表現で結ぶなど、その記載内容、表現ともに非教育的記載となっている。これは、学校教育法28条4項、40条に違反し、教師の教育評価権限の限界を超え、もしくは権限を濫用したものとして違法というべきである。
 憲法19条は、思想及び良心の自由を保障し、教育基本法3条1項は、思想、信条を理由にして教育上の差別的取扱いをすることを禁止している。中学校長が調査書に生徒の思想、信条に関する事項を記載したうえ、高等学校長あてに提出したときは、その高校で思想、信条に関する事項をも選抜判定の資料に使用させ、教育上の差別的取扱いをさせたことに帰するものというべきである。
 しかも、学校は私が卒業式に出席するのを拒絶し、私を排除した卒業式を強行したので、これは学習権の侵害で違法である。

3 千代田区長の主張

 保坂君が不合格になった原因は、中学校で学んでいた教科の評定が良いとはいえなかったことと、選抜のための学力検査の成績とを合わせた結果によると考えられる。また、高校の面接時の保坂君の言動も不合格の原因になったと推定される。
 保坂君の分離卒業式を実施したのは、保坂君が卒業式粉砕闘争を唱え、機関紙、ビラの配布や落書きなどの方法により、一般生徒にも卒業式粉砕を呼びかける活動を執拗に続けていたから、卒業式での衝突を回避するためにやむを得ない措置だった。

4 最高裁判所の判決

 調査書の備考欄及び特記事項欄にはおおむね「校内において麹町中全共闘を名乗り、機関誌『砦』を発行した。学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで他校生徒と共に校内に乱入し、ビラまきを行なった。大学生ML派の集会に参加している。学校側の指導説得をきかないで、ビラを配ったり、落書きをした。」との記載が、欠席の主な理由欄には「風邪、発熱、集会又はデモに参加して疲労のため」という趣旨の記載がされ
ていたというのであるが、いずれの記載も、保坂氏の思想、信条そのものを記載したものではないことは明らかであり、その記載に係る外部的行為によっては保坂氏の思想、信条を了知し得るものではないし、また、保坂氏の思想、信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとは到底解することができない。
 なお、調査書は、学校教育法施行規則59条1項の規定により学力検査の成績等と共に入学者の選抜の資料とされ、その選抜に基づいて高等学校の入学が許可されるものであることにかんがみれば、その選抜の資料の一つとされる目的に適合するよう生徒の学力はもちろんその性格、行動に関しても、それを把握し得る客観的事実を公正に調査書に記載すべきであって、今回の調査書の備考欄等の記載もその客観的事実を記載したものであるから、所論の理由のないことは明らかである。
 よって、保坂氏の上告を棄却する。

5 衆議院議員から世田谷区長へ

 今回のケースで裁判所は、高校入試の際に中学校長により作成、提出される内申書の記載で「校内において麹町中全共闘を名乗り、機関誌『砦』を発行した。学校文化祭の際、文化祭粉砕を叫んで他校生徒と共に校内に乱入し、ビラまきを行なった。」と記載していたとしても、生徒の思想信条の自由や表現の自由を侵害するものではないとしました。
 保坂展人氏は、その後に教育ジャーナリスト、衆議院議員を経て、世田谷区長になっています。また、保坂氏の裁判の担当弁護士の1人が元衆議院議員の仙谷由人さんだったことも注目されましたね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?