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空飛ぶタイヤ事件

こんにちは。

 池井戸さんの代表作「空飛ぶタイヤ」の映画を見て大きな衝撃を受けましたが、映画の主題歌になっているサザンオールスターズの「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」に出てくる「寄っといで 巨大都市(デっかいまち)へ」の歌詞にも同じくらい衝撃を受けましたね。

 今日はそんな映画のモデルとなった「空飛ぶタイヤ事件」(最決平成24年2月8日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 神奈川県綾瀬市内の運送会社が所有する三菱ふそうの大型トレーラー(三菱ふそう『ザ・グレート』)から突如タイヤが脱輪し、そのまま坂を猛スピードで転がりベビーカーを押して歩いていた女性に激突して、母親が死亡、子ども2名も負傷する事故が発生しました。

 当初、三菱自動車工業は運送会社が所有するトラックの整備不良であると主張していましたが、検察は三菱自動車工業の品質保証部門の部長とその補佐の両名が、リコールなどの改善措置を実施するための措置を怠ったとして、業務上過失致死傷罪で逮捕、起訴しました。また、死亡した女性の母親は、三菱自動車工業に対して製造物責任3条に基づき1億5800万円を、国に対しては国家賠償法1条に基づき550万円の損害賠償を求めました。

2 刑事裁判における判断

 第1審の横浜地方裁判所は、今回の事故の原因はDハブの強度不足であり予見可能性や注意義務違反があったことから、業務上過失致死傷罪の成立を認め、禁固1年6月、執行猶予3年としました。第2審の東京高等裁判所も、リコールによって今回の事故を防止できたとして、控訴を棄却しました。 
 最高裁は、「被告人両名には、その地位や職責、権限等に照らしリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採り、強度不足に起因するDハブの輪切り破損事故が更に発生することを防止すべき業務上の注意義務があったというべきである。Dハブには、設計または製作の過程で強度不足の欠陥があったと認定でき、瀨谷事故も、事故車両の使用者側の問題のみによって発生したものではなく、Dハブの強度不足に起因して生じたものと認めることができる。そうすると、瀨谷事故は、Dハブを装備した車両についてリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採らなかった被告人両名の注意義務違反に基づく危険が現実化したものといえるから、両者の間に因果関係を認めることができる。よって上告を棄却する。」と判断しました。
 つまり、欠陥製造物に関してリコールをしなかったこと(不作為)を理由に、関係者に業務上過失致死傷罪が認められたのです。

3 民事裁判における判断

 すでに、死亡した女性の相続人らと運送会社との間で、夫に3586万円、子らに1714万2500円を支払う旨の和解が成立していたことを踏まえて、最決平成19年9月20日は上告を棄却し「国のリコール対策室が三菱自動車工業の担当者の虚偽の報告をその当時見抜くことができなかったのは事実であるが、それには相応の理由があり、以後徹底した調査を実施しなかったという不作為が国家賠償法上違法と評価される場合にはあたらない。しかし、三菱自動車工業はリコール業務是正の警告を受けながら、表向きはその改善を装いつつ、実際上欠陥を放置していたのであるから、加害態様は非常に悪質で、結果も重大であるといわなければならない。よって、三菱自動車工業に填補慰謝料として500万円、弁護士費用として50万円の支払を命じる」とした高裁判決が確定しました。

4 担当弁護士の懲戒処分

 今回の民事裁判で被害者遺族の弁護をしていた青木勝治弁護士は、遺族に相談することなく勝手に三菱自動車への請求金額を約1億6550万円に増額しただけでなく、控訴や上告を勝手に行ったり、三菱自動車から振り込まれた550万円を弁護士費用と相殺して遺族に支払わなかったことから、横浜弁護士会から6カ月の業務停止処分を受けています。

 裁判だけでも様々な事実が浮かび上がってくるのですが、それ以上に裁判資料からは読み取れない、運送会社の関係者の多大な苦悩を描いた「空飛ぶタイヤ」という作品は、本当に貴重だと感じましたね。

では、今日はこの辺で、また。


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