見出し画像

ゴルフボールのキャディ直撃事件

こんにちは。

 ゴルフというスポーツでは、プレー中にカミナリに打たれたという事故が起きたり、アルバトロスやホールインワンを達成したときの祝賀会費用で大金を払うはめになるといった事故も起きています。

 もちろん、プレー中にゴルフボールでケガをすることも当然にあります。そんなときにプレーヤーはどのような責任を負うのかを考える上で、今日はゴルフボールのキャディ直撃事件(名古屋地判平成14年5月17日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 15年のゴルフ経験のある男性会社員(34歳)は、5年ぶりに愛知県東加茂郡にあるゴルフクラブで同僚たちとプレーを楽しんでいました。
 プレーの途中で、会社員の打ったボールが深いバンカーに入ってしまいます。このとき、会社員が声をかけずに打ったバンカーショットがシャンクしてしまい、ボールが約70度の角度で右に飛んでいったところ、約11メートル離れた位置にいたキャディの左目に直撃してしまいました。この事故により失明したキャディが、会社員に対して約2842万円の損害賠償を求めたのです。

2 キャディ側の主張

 ゴルフでは、自己の打球が飛ぶ範囲に人がいないことを確認したり、ボールを打つ前に「打ちますよ」と声を掛けて周囲の人に注意を促し、危険を避けられる状態であることを確認して打つべき注意義務があります。
 会社員はこの注意義務を怠り、声をかけることをせず、大きく右にずれた方向にボールを打ったことによって事故が発生したのです。よって、民法709条に基づき、不法行為責任があります。

3 会社員側の主張

 15年のゴルフ経験があるキャディさんなら、バンカーショットで事故が起きる危険性について十分に知ることができたはずなのに、キャディさんは打球から目をそらし、全く見ていなかった。しかも、ボールを打つ地点より後ろに位置することなく、深さ約1.3mのバンカー内にいた私を見下ろせる位置にいたにもかかわらず、打球を見ていなかったので過失がある。仮に私に過失があるとしても、キャディさんの過失の方がはるかに大きいので、8割の過失相殺をするべきです。

4 名古屋地方裁判所の判決

 ゴルフ競技は、使用される球の性質上、競技者の打った球が他の競技者に当たった場合、重大な障害を負わせるおそれがあることは明らかであるから、競技者が球を打つ場合は、周囲の状況や、飛んでいる球の方向や距離から推測して、同伴競技者等に当たらないように十分注意を払う義務がある。
 しかし一般に、ゴルフ場所属の経験豊富なキャディは、そのゴルフコースに不慣れな競技者に比べて、ゴルフ場のコースに精通しており、事故発生の可能性が大きい局面を見極め、自らそれを回避するよう努める余地が大きい。したがって、キャディが第一次的には自己の判断で危険を回避するための適切な動作をするものと予想することも、あながち不当とはいえない。
 キャディーが目を離していなかったなら、少なくとも目に当たる事故は回避できた可能性が高く、キャディーにとって今回の事故回避が不可能であったとは認められない。ところが、キャディーは会社員の球がグリーンに乗っていないのに、これを注視することなく、とりわけ急ぐとも思えない同伴競技者ボールを拭くサービスをしようとしていた点は不注意であったので、過失割合を5割とする。
 よって、キャディー側に約1046万円の支払いを命じる。

5 キャディにも高度な注意義務がある

 今回の事件では、キャディ自身が危険を察知して回避する行動をとる必要があるといったように、かなり高度な注意義務が求められています。またプレーヤーが第2打目をシャンクさせたことについても、裁判所は過失を認定しています。もちろん、自分がいくら注意したとしても意図しない方向にボールが飛ぶ可能性もありますので、ボールを打つ人は、ボールが飛ぶ範囲内に人がいないかどうかを十分に確認する必要があるでしょうね。

 では、今日はこの辺で、また。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?