見出し画像

二股婚姻費用分担請求事件

こんにちは。

 今日は、結婚前に二股をしていた女性が、生まれた子どもの養育費を含む婚姻費用の分担を求めたことが問題となった最決令和5年5月17日を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 結婚前に二股をかけていた女性は、平成26年に男性と結婚し、その2か月後に子どもが生まれました。令和元年10月に妻が夫に対して離婚を求めたことを契機として、別居するようになり、子どもは妻が監護養育していました。夫は、子どもが自分の子であるかどうかについて疑問を抱いていたことから、DNA検査を実施したところ、自分が父であることを否定する結果が出てきました。
 夫は妻と子に対して父子関係不存在確認と離婚を求める調停を申し立てました。しかし、妻が調停に出席しなかったので、調停は成立せず、逆に妻は夫に対して婚姻費用分担の調停を申し立てました。しかし、これも成立しなかったので、審判に移行しました。

2 最高裁判所の決定

 原々審は、令和4年3月、本件父子関係は存在しないとした上で、このことに加え、本件の事実関係に照らすと、妻が夫に対して婚姻費用の分担を求めることは信義則に反するなどとして、本件申立てを却下する審判をした。妻は、原々審判に対し、即時抗告をした。原審は、妻が夫に対して婚姻費用の分担として妻自身の生活費の分担を求めることは信義則に反するなどとした上で、要旨次のとおり判断して、令和3年5月から夫と妻との離婚若しくは別居状態の解消又は訴訟における本件父子関係の不存在の確定に至るまでの間、夫が妻に対して月額4万円を支払うべきものとした。
 夫が本件子の生物学上の父であることはDNA鑑定によって否定されているものの、本件父子関係はこのことから直ちに否定されるものではなく、その存否は、訴訟においてその他の諸事情も考慮して最終的に判断されるべきものである。 したがって、本件父子関係の不存在を確認する旨の判決が確定するまでは、夫は本件子に対する本件父子関係に基づく扶養義務を免れないから、本件子の養育費相当額(月額4万円)は、夫の分担すべき婚姻費用に当たる。
 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 夫は、婚姻後に妻が出産し戸籍上夫婦の嫡出子とされている子であって民法772条による嫡出の推定を受けないものとの間の父子関係について、嫡出否認の訴えによることなく、その存否を争うことができる。そして、訴訟において、財産上の紛争に関する先決問題として、上記父子関係の存否を確定することを要する場合、裁判所がこれを審理判断することは妨げられない。このことは、婚姻費用分担審判の手続において、夫婦が分担すべき婚姻費用に推定を受けない嫡出子の監護に要する費用が含まれるか否かを判断する前提として、推定を受けない嫡出子に対する夫の上記父子関係に基づく扶養義務の存否を確定することを要する場合であっても異なるものではなく、この場合に、裁判所が上記父子関係の存否を審理判断することは妨げられないと解される。
 本件子は、戸籍上夫と妻の嫡出子とされているが、妻が夫との婚姻の成立の日から200日以内に出産した子であり、民法772条による嫡出の推定を受けない。そうすると、本件において、夫の本件子に対する本件父子関係に基づく扶養義務の存否を確定することを要する場合に、裁判所が本件父子関係の存否を審理判断することは妨げられない。 ところが、原審は、本件父子関係の存否は訴訟において最終的に判断されるべきものであることを理由に、本件父子関係の不存在を確認する旨の判決が確定するまで夫は扶養義務を免れないとして、本件父子関係の存否を審理判断することなく、夫の本件子に対する本件父子関係に基づく扶養義務を認めたものであり、この原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
 以上によれば、原審の上記判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、 原決定は破棄を免れない。そして、原決定後に夫から提出された判決の正本及び同判決の確定証明書によれば、本件父子関係が存在しないことを確認する旨の判決が確定したことが認められるから、夫が本件子に対して本件父子関係に基づ く扶養義務を負うということはできず、その他、夫と妻が分担すべき婚姻費用に本件子の監護に要する費用が含まれると解すべき事情はうかがわれない。このことを前提にすれば、本件の事実関係の下において本件申立てを却下した原々審判は正当であり、原々審判に対する抗告を棄却すべきである。
 よって、原決定を破棄し、原々審判に対する抗告を棄却する。

3 婚姻費用の分担

 今回のケースで裁判所は、婚姻費用分担審判において、夫とその妻が婚姻後に出産し戸籍上夫婦の嫡出子とされている子であって民法772条による嫡出の推定を受けないものとの間の父子関係の存否を審理判断することなく、夫の子に対する父子関係に基づく扶養義務を認めた原審の判断に違法がある、としました。
 つまり、DNA鑑定の結果、夫の子ではないと判明した子どもの養育費用を含む生活費を、妻は夫に請求できないとされているので注意が必要でしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?