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ブルドーザー事件

こんにちは。

 超巨大ブルドーザーの新車の値段が1億円を超えると知って驚きましたね。

 さて今日は、ブルドーザーの修理代をめぐって裁判に発展した「ブルドーザー事件」(最判昭和45年7月16日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 福岡トヨペットは、立花重機からブルドーザーの修理の依頼を受け、約51万円相当の修理を行いました。福岡トヨペットが、立花重機にブルドーザーを引き渡したところ、その2か月後に立花重機が倒産してしまいました。しかも、立花重機にブルドーザーを賃貸していた新東亜交易株式会社は、ブルドーザーを引き上げて、170万円で売却してしまったのです。そのため福岡トヨペットは、新東亜交易に対して不当利得の返還を求めて提訴しました。

2 福岡トヨペットの主張

 立花重機は、新東亜交易からブルドーザーを借りてわずか2週間後に修理に出しているので、最初からブルドーザーがかなり損傷していたと考えられる。しかも新東亜交易は、一銭も修理代を払わずに、修理されたブルドーザーを売却して170万円の利益を得ていたのだ。その利得は、売却代金の一部としてなお現存しているのだから、民法703条の「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」に基づいて、約51万を法律の原因なく利得を得ている新東亜交易に対して、その利得の返還を求める。

3 新東亜交易の主張

 私どもは、立花重機にブルドーザーを貸し出す際の契約で、修理代は立花重機が負担すると取り決めておりましたので、そもそも私どもに修理代を負担する義務はありません。また民法703条の不当利得の規定を適用するには、我々が受けた利益と福岡トヨペットの受けた損失との間に直接的に因果関係が存在している必要があります。ところが、立花重機と福岡トヨペットとの間に修理請負契約が介在しているので、直接の因果関係があるとは言えないのではないでしょうか。

4 最高裁判所の判決

 ブルドーザーの修理は、一面において、福岡トヨペットにこれを要した財産および労務の提供に相当する損失を生ぜしめ、他面において、新東亜交易にそれに相当する利得を生ぜしめたもので、福岡トヨペットの損失と新東亜交易の利得との間に直接の因果関係ありとすることができるのであって、福岡トヨペットのした修理を受領した者が新東亜交易ではなく立花重機であることは、その損失および利得の間に直接の因果関係を認めることの妨げとなるものではない。ただ、その修理は立花重機の依頼によるものであり、したがって、福岡トヨペットは立花重機に対して修理代金債権を取得するから、その修理により新東亜交易の受ける利得はいちおう立花重機の財産に由来することとなり、福岡トヨペットは新東亜交易に対しその利得の返還請求権を有しないのを原則とするが、立花重機の無資力のため、その修理代金債権の全部または一部が無価値であるときは、その限度において、新東亜交易の受けた利得は福岡トヨペットの財産および労務に由来したものということができ、福岡トヨペットは、その修理により新東亜交易の受けた利得を、立花重機に対する代金債権が無価値である限度において、不当利得として、新東亜交易に返還を請求することができるものと解するのが相当である。
 よって、福岡トヨペットの請求を棄却した原判決を破棄し、福岡トヨペットが立花重機に対していかなる限度で価値を有するかを審理させるため、福岡高等裁判所に差し戻す。

5 新東亜交易の二重の負担?

 今回のケースで裁判所は、ブルドーザーを所有する新東亜交易から、「修理費を自社が負担する」という契約でブルドーザーを借り受けた立花重機が、修理を行った福岡トヨペットに修理代を払わずに倒産したときには、福岡トヨペットはブルドーザーの所有者である新東亜交易に対して修理代に相当する利得の返還を求めることができるとしました。
 また差戻審の福岡高等裁判所は、新東亜交易に対して、ブルドーザーを売却したときに修理による増額分を約38万円と算定して、その額を福岡トヨペットに返還せよという判決を下しています。
 ただし、「新東亜交易は立花重機に修理代を負担してもらう代わりに、賃料を安く設定していたのなら、さらに修理代を負担させられる新東亜交易は酷なのではないか」との意見もあることを知っておいてもらえれば幸いです。
では、今日はこの辺で、また。


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