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警察予備隊事件

こんにちは。

 今日は、警察予備隊が憲法に違反するのかどうかが問題となった最大判昭和27年10月8日を紹介したいと思います。


1 どんな事件だったのか

 昭和25年、朝鮮戦争の勃発により日本に駐留していたアメリカ軍が朝鮮半島にわたると、日本国内で警察署などが襲撃される事件が頻発し、国内の治安が警察力だけでは維持できなくなっていました。そこでGHQのマッカーサーの指令により国内の治安を維持するという目的で、7万5000人からなる警察予備隊が設置されました。これに対して、日本社会党の鈴木茂三郎委員長は、警察予備隊の存在自体が戦力の不保持を規定した憲法9条に違反すると主張し、憲法81条を根拠に警察予備隊の設置並びに維持に関する一切の行為が無効であることの確認を求めて、いきなり最高裁判所に提訴しました。

2 最高裁判所大法廷判決

 鈴木氏は、最高裁判所が一方司法裁判所の性格を有するとともに、他方具体的な争訟事件に関する判断を離れて抽象的に又一審にして終審として法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するや否やを判断する権限を有する点において、司法権、以外のそして立法権及び行政権のいずれの範疇にも属しない特殊の権限を行う性格を兼有するものと主張する。  
 この点に関する諸外国の制度を見るに、司法裁判所に違憲審査権を行使せしめるもの以外に、司法裁判所にこの権限を行使せしめないでそのために特別の機関を設け、具体的争訟事件と関係なく法律命令等の合憲性に関しての一般的抽象的な宣言をなし、それ等を破棄し以てその効力を失はしめる権限を行わしめるものがないではない。しかしながらわが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり、そして司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。けだし最高裁判所は法律命令等に関し違憲審査権を有するが、この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり、この点においては最高裁判所と下級裁判所との間に異るところはないのである。鈴木氏は憲法81条を以て主張の根拠とするが、同条は最高裁判所が憲法に関する事件について終審的性格を有することを規定したものであり、従って最高裁判所が固有の権限として抽象的な意味の違憲審査権を有すること並びにそれがこの種の事件について排他的なすなわち第一審にして終審としての裁判権を有するものと推論することを得ない。鈴木氏が最高裁判所裁判官としての特別の資格について述べている点は、とくに裁判所法41条1項の趣旨に関すると認められるがこれ最高裁判所が合憲牲の審査のごとき重要な事項について終審として判断する重大な責任を負うていることからして十分説明し得られるのである。  
 なお最高裁判所が鈴木氏の主張するがごとき法律命令等の抽象的な無効宣言をなす権限を有するものとするならば、何人も違憲訴訟を最高裁判所に提起することにより法律命令等の効力を争うことが頻発し、かくして最高裁判所はすべての国権の上に位する機関たる観を呈し三権独立し、その間に均衡を保ち、相互に侵さざる民主政治の根本原理に背馳するにいたる恐れなしとしないのである。  
 要するにわが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。そして弁論の趣旨よりすれば、鈴木氏の請求は右に述べたような具体的な法律関係についての紛争に関するものでないことは明白である。従って本訴訟は不適法であって、かかる訴訟については最高裁判所のみならず如何なる下級裁判所も裁判権を有しない。この故に本訴訟はこれを下級裁判所に移送すべきものでもない。
 よって、鈴木氏の訴えを却下する。

3 事件が起きていない段階での憲法判断

 今回のケースで最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有するものではない、としました。つまり、トラブルがないにもかかわらず、ストレートに法律が憲法に違反すると主張して裁判で争うことができませんので注意が必要です。
 また警察予備隊は、朝鮮戦争がアメリカとソ連の代理戦争に発展する可能性が高まったことから、治安維持のための組織から国防のための武力を持つ保安隊に改編され、昭和29年には自衛隊に改組されます。さらに、昭和27年に朝鮮戦争に日本を参加させるためにサンフランシスコ講和条約が発効され、日本は独立国として主権を回復しますが、当時の吉田茂総理大臣は、日本国憲法を盾に、朝鮮半島への参戦を拒んでいたという事実も知っておくと良いでしょうね。
 では、今日はこの辺で、また。


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