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旭川学力テスト事件

こんにちは。

 抜き打ちテストと聞くと、めちゃイケの中間テストを思い出しますが、濱口優さんの英語の答案に書かれていた名前がドイツ語風に「Masaru Hamagucht(マサル ハマグヒト)」になっていたことに衝撃を受けましたね。

 さて、今日は中学生に対して実施された学力テストが問題となった「旭川学力テスト事件」(最大判昭和51年5月21日裁判所ウェブサイト)を紹介したいと思います。

1 どんな事件だったのか

 1961年、中学2・3年を対象に、これまでの抽出調査ではなく、一斉学力調査の実施がされることになりました。しかし、抽出調査段階から北海道教職員組合が反対していたこともあって、今回の学力調査実施に対して反対運動をしていた中学校の教師たちが、学力調査の当日に旭川市立永山中学校に侵入し、学力調査立会人として旭川市教育委員会から派遣された事務局職員や校長に対して共同で暴行や脅迫を加えて公務の執行を妨害しました。そのため、中学校の教師ら4名が、警察に逮捕、起訴されました。

2 検察側の主張

 被告人たちは、校長らに学力テストの中止を求めるために、説得隊員70名の引き連れて、校長の制止にもかかわらず、校内に侵入したのだ。これは建造物侵入罪にあたる。また、校長の行く手を阻んで束縛し、胸を突くなど暴行を加えていたのだ。これは公務執行妨害罪、共同暴行罪にあたる。

3 中学教師たちの主張

 学力調査の真の目的は、生徒の点数で教師の教育能力を把握して、勤務評定制度を実施するといった行政的介入であり、これは教育に対する国家権力の重大な介入だ。また、教育条件や施設面で極めて劣悪な地域の学校において、大都市と同一レベルでテストをすることは問題であり、このようなペーパーテストの結果によって、生徒の将来を決定することは、生徒に対する重大な人権侵害である。そもそも、学力調査自体の法的根拠はなく違法なものなので、我々は無罪となるはずだ。

4 最高裁判所大法廷判決

 親は、子どもに対する自然的関係により、子どもの将来に対して最も深い関心をもち、かつ、配慮をすべき立場にある者として、子どもの教育に対する一定の支配権、すなわち子女の教育の自由を有すると認められるが、このような親の教育の自由は、主として家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由にあらわれるものと考えられるし、また、私学教育における自由や教師の教授の自由も、それぞれ限られた一定の範囲においてこれを肯定するのが相当であるけれども、それ以外の領域においては、一般に社会公共的な問題について国民全体の意思を組織的に決定、実現すべき立場にある国は、国政の一部として広く適切な教育政策を樹立、実施すべく、また、しうる者として、憲法上は、あるいは子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有するものと解さざるをえず、
これを否定すべき理由ないし根拠は、どこにもみいだせないのである。
 すると学力調査には、教育そのものに対する「不当な支配」として違法性があるということはできない。よって、被告人を懲役3ヵ月に処する。この裁判確定の日から1年間、その刑の執行を猶予する。

5 学力テストの中止と再開

 今回のケースで裁判所は、文部省による学力テストの実施を阻止しようとして校長らに暴行を加えた教師らについて、中学校の教師に一定の範囲の教育の自由があることを肯定しながら、生徒には教育内容を批判する能力がなく、教師に強い影響力があることから、完全な教授の自由はないとし、教育内容についても国が「必要かつ相当と認められる範囲において」決定できるとして、学力テストを適法とした上で、有罪判決を下しました。
 その後も、全国で学力テストに対する反対運動が相次いだことから、1965年に一旦全員調査が中止され、2007年に再開されるまでかなりの期間を要したという事実があったことを知ってもらえると幸いです。
 では、今日はこの辺で、また。

 


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