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悪癖のサラブレッド。

本多篤紀はしがないサラリーマン。特に取り柄があるわけでもなく、取り立てて特技があるわけでもない。ただ、誰にでもできる仕事を誰にでもできるレベルでこなして、給料をもらって誰にでもできる生活を送っている。
平凡を絵に描いたような男だった。
会社に同僚はいるし、後輩も先輩も存在するが誰かと仲がいいということもない。つまり、本多がある日急にいなくなっても業務配分以外に気にする人間などいない。ということになる。孤独とはそういうものだ。
本多はもう少しで40歳にかかろうかという年齢だ。だが誕生日を祝ってくれる人もいない。少し前まで結婚願望もあるにはあったが、人間関係の延長で凪いだまま波風ひとつ立たない女性関係に見切りをつけて特に行動を起こすでもなく、それを諦め、放棄した。孤独になる人間はそういうものだ。
何もしないで諦める。周囲への無理な期待が叶えられないと勝手に裏切られた気分になって塞ぎ込む。その思考回路は卑屈とさえいえる。
休みの日には家からも出ず、ただダラダラと寝て起きて、テレビを見ながら寝て、無気力さを前面に押し出すタイプの過ごし方を是とする。
それを咎める人も、一緒に外に出ようと誘ってくれる人間も存在しない。
本多篤紀は孤独の真っ最中に居た。

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