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異形の茶会とトリックスター博物館

 今から5年前(2020年1月)東京の戸越にあるギャラリーHasu no hanaのフクマさんに誘われて、個展「現れるところ消えるところ」を開催した。ありがたいことに、沢山の方に作品を買って頂き、ギャラリーにも少しだが売上を入れることができた。
その売上でフクマさんは畳を買った。ギャラリーの2階には小さな茶会があったのだが、畳を入れれば完成というところまで来ていたからだ。
 異形の彫刻が売れたおかげで畳を入れられた縁から、茶会には「異形の間」という名が付けられることになり、いつか茶室で、茶会という名の展示をすることを約束した。
 そして、2022年5月に「異形の茶会」が開催された。異形の間は2畳ほどの広さで灯りはなく、小窓から入ってくる日の光だけで薄暗い。日が暮れれば真っ黒になってしまうほどだ。そんな暗い茶室で茶会を行うのは、蓮の顔を持つトリックスター「蓮ックスター」である。茶会に招かれたお客さんは、異形の間に一人ずつ入って、蓮ックスターと向かい合って薄暗い(もしくは真っ暗の)中でお茶を飲む。異形の彫刻を眺めながら行われる15分間の「異形の茶会」である。茶会に参加してくれた約100人の方が、その奇妙な鑑賞体験を楽しんでくれた。

2022年に異形の間で行われた1回目の茶会の様子。
参加者は暗い茶室で蓮ックスターと向かい合い、二人きりで15分間を過ごす。(写真:中川達彦)

 その茶会と同時に、ギャラリーでこっそりと行われていたのが1回目のトリックスター博物館である。茶会は予約制で、2階で茶会が始まるまでの待ち時間を、お客さんは1階のギャラリーで過ごすことになる。待ち時間を退屈しないで過ごせる様に、ギャラリーに少しだけ作品を展示することにしたのだ。
 2017年に、ある偶然から「トリックスター」という名前を得た三本足の生き物たちは、その仲間を増やしていった。
 そして、新たな作品が出来るたびに、その特徴から「○○ックスター」という名前を付けた。正座しているトリックスターは「正座ックスター」、花を植えられるから「植木鉢ックスター」、風鈴のように風に揺れるから「風ックスター」というように。
 最初は、深く考えず楽しんで名前を付けただけだったが、新たな形を持ったトリックスターが生まれてくると、「○○ックスター」と名づけることに義務感を感じる様になっていった。時には、作品を見た方から、「これは何ックスターですか?」と質問を受けたり、「これは○○ックスターでは?」と推測されたり、その推測から新たな名前が生まれることもあった。しかし、名前と言っても、同じ名前を持つトリックスターが数多くいるため、個人の呼び名というより、トリックスターの「種族」の分類名に近いものだ。
 そんなことを考えていた時期だったので、ギャラリー1階の展示では、アトリエにあったトリックスターの中から、種族を代表する作品を一つずつピックアップして飾ることにした。作品を並べてみると、ギャラリーが、異形の生き物を集めた怪しい博物館の様に見えてきて、想像以上に魅力的な展示が出来上がった。

2022年に行われた1回目のトリックスター博物館の様子。(写真:中川達彦)

 茶会と同様に、一階の展示も参加者に好評だった。しかし、1回目のトリックスター博物館は、急な思いつきで始めたものだったので、大きさもバラバラで、中途半端な数しか展示できないことにも悔いが残った。
 2024年、2回目の「異形の茶会」を行う機会が巡ってきた。これは、トリックスター博物館をしっかりとした形で作り直すチャンスでもあると思った。
 これまで作ったトリックスターの種族を書き出してみると、驚くべきことに60種を超えていた。そして、一つひとつ種族の特徴を確認しながら、多種多様な〇〇ックスターを10センチ程度の大きさに揃えて、制作した。それは2017年から始まったトリックスターとの7年の道のりを、制作を通じて振り返る貴重な機会にもなった。
 これからも、トリックスターの種族は、どんどん増えていくだろう。だからこの展示が2024年5月時点の記録となる。

 とりあえずここまで、である。

(この文章は、2024年5月に発行された冊子「Trickster」の第二号に書かれた文章から抜粋したものである。)

ご興味を持たれた方は、是非こちらから茶会の予約をお願い致します。

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