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「竹林は必ずしも安全ではない」〜“防災の常識”アップデートを

春を代表する味覚のひとつといえばタケノコ。山菜やタラの芽など野山に自生する食材だからこそ、よりダイナミックに季節を味わえることも理由のひとつでしょう。タケノコが伸びてタケとなりますが、その成長スピードは他の樹木の追随を許さない早さです。収穫してもあっという間に「食べごろ」を逃してしまう、油断のならない食材ともいえますね。

原産地の中国でも日本でも、他のタケノコに先駆け収穫できることからモウソウチクが食用として定着しています。日本では1736年に薩摩に渡来し、各地へ分布が広がったといわれており、収量や品質を重視する栽培技術が確立し産地化が進むと、高級野菜に仲間入りします。美味しく育てる上で水分量の多寡にデリケートなタケノコは、緩傾斜地の水はけの良い場所、土壌は礫質の少ない粘質土、乾燥しすぎず腐植の少ない土地に適するそうです。

プラスチックが普及するまでは農業資材や生活道具に重宝されてきた身近なタケ。温帯と熱帯では種類が異なり、日本のような温帯によく育つタケ類は地下茎が発達し、地表面から30〜40センチメートルの浅い位置で横方向に這いながら成長します。びっしりと根を張ることから「地震の際は竹林に逃げ込め」と防災のいろはとして教わった人も多いでしょう。ところが、その地下茎によって下の地盤との間に境が生まれるため水が入りやすく、斜面では竹林ごと地すべりを起こすことが一般にも知られるようになってきました。竹林はかつて地すべりがあった場所、と見る向きもあり、土砂が溜まった地すべり地(緩傾斜地)でタケはあっという間に根を張り成長し、他の樹木が入り込む余地がなくなるほどにコロニーを形成します。

竹林のくだんの言い伝えのように今では誤った情報と考えられるもの、「地震が来たらまずガス台の火を消す」「揺れたらトイレに駆け込む」など、かつて正しいと言われた対応も時代とともにリスク状況の変化により普遍性を失ったもの、近年の感染症拡大により急変した避難行動と避難所のあり方、日進月歩の気象庁の情報公開方法など枚挙に暇がありません。最近なら「長周期地震動」の緊急地震速報(2023年2月1日開始)が挙げられるでしょう。
防災を人に伝える立場としては、古い情報の刷新はもちろんのこと、情報が偏らないよう幅広いメディアに常にアンテナを張りながら、防災常識のアップデートを心がける姿勢が何よりも求められます。

Writing / 鈴木里美


参考資料|草木花歳時記・夏(朝日新聞社刊 1999年)|地盤災害から身を守る(桑原啓三著 古今書院刊 2008年)|サイト:竹藪と地すべりの関係(株式会社NTO)

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