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4-2.アーティキュレーションについて(無料記事)

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アーティキュレーションとは何か

アーティキュレーションとは、音符に対しての表情の付け方を指す言葉で、例えばスラーとかスタッカート、テヌート、アクセントなどがそれにあたります。

音符そのものはどのくらいの時間音を伸ばすかを指示するだけの存在です。五線の中に置かれるとその長さにピッチ(音の高さ)の情報が追加されます。
後にも先にも音符にはこれしか情報がありませんから、「音楽」と言うよりも単なる物理的なデータです。したがって、それぞれの音符に個性を持たせるには追加で何か書き込まなければなりません。それがアーティキュレーションと言うわけです。


「技術本」第4章では、アーティキュレーション記号と呼ばれるものを1記事につき、ひとつずつピックアップし、詳しく考えてみたいと思います。


「書いてあるからやる」は、表現ではない

楽譜に書いてあるから、やる。演奏者が最も陥りやすい楽譜の見方です。楽譜を「書いてある通りに演奏しなければならない絶対的な存在」と捉えてしまうと、楽譜に書いてあることを機械的に再現することが目的になってしまいます。

アーティキュレーション記号も同じように「スタッカートが書かれているから音を短く切ればいい」「アクセントがついている音は大きな音で演奏する」といった思考が停止した捉え方になるのは非常に音楽的ではありません。

そこで、立場を変えて楽譜を見ることにしましょう。


作曲者の立場になってみる

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あなたが作曲家だったとしましょう。頭の中に想い描く旋律、展開をたくさんの人に演奏してもらいたいので楽譜に書き起こすことにしました。

ある場面で恐竜がドスーン!ドスーン!と歩くシーンを書きます。一歩ずつが重く地面が揺れるようなその音にアーティキュレーション記号を書き足して、より伝わりやすくしたいと思います。どの記号を書きますか?

もうひとつ。

銃撃戦のシーンを書きます。パーン!といった発砲音も演奏に組み込みたいので楽譜に書きますが、あなたならどんな記号を書きますか?

多分ですが、これらには「アクセント記号」を書き込むのではないか、と想定されます。


楽譜というのはある程度の制約があります。現代曲のようにオリジナルの記号を楽譜上に記入するのも構いませんが、通常は共通に使われているアーティキュレーション記号を用います。それらの数は決して多くありませんから、作曲者はその中から最も自分のイメージしているものに近い記号を記入する「妥協」が含まれていると考えられます。したがって同じ記号であってもそれぞれのに込められたイメージは、場面ごと、作品ごと、作曲者ごとに異なるわけです。

演奏者はこの事実を理解して楽譜を読む必要があります。


演奏者として読み取る

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これがわかれば、「スタッカートって書いてるから音を短く切ればいい」などと安直な発想で演奏して良いわけがないと理解できるはずです。正しくは「このメロディのスタッカートに作曲者はどんなイメージを持っているのだろうか」と考えることが必要です。

次に「それを自分だったらこう表現する(したい)」を具体的にイメージすることです。演奏者は、作品を作曲家のイメージ通りに再現することだけが仕事ではありません。演奏者自身が感じるイメージや作品への想い、そういった「自分の心」を込めて演奏をするわけですから、アーティキュレーションひとつとっても「自分だったら」が必要です。

それらが具体的になったら最後にすべきこと、それは「聴く人へそれを伝える」ことです。
音楽は聴く人に想いを伝えることで成立します。メッセージ、考えを共感してもらったり、知ってもらったり、考えてもらったり。ですから、作曲者の想いをイメージし、それを自分はどう感じているのかを具体的にまとめ、それを聴く人に届くためにどうやって演奏しようかイメージし、伝える。これが演奏者のすべきことです。

アーティキュレーション記号もその中にしっかりと含まれているわけです。


弦楽器の体の使い方

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このように、アーティキュレーションは同じ記号でも作品や場面によってすべて違う中身を持っているわけですから、それだけたくさんの「表現の引き出し」を持っている必要があります。
できることなら、それらは楽譜を受け取る前の段階、基礎練習で可能な限りたくさんの表現の引き出しを用意しておくことが望ましいです。
そのための練習として、例えば今使っている何かの教則本や基礎練習パターンを、様々なアーティキュレーションとその中に込められたイメージを適用し練習します。同じスタッカート記号でも「〇〇なスタッカート」といった具合に。部活動など複数で演奏する機会があるなら、どんどん提案して採用していくと楽しいですね。

アーティキュレーションを表現する上でとても参考になるのが弦楽器奏者の体の使い方です。弦楽器は弓の使い方で音の鳴り方が大きく変化します。ありがたいことに弓のうごきは目で捉えることができるので、空気をコントロールする我々管楽器に比べると参考になる部分がとても多いのです。素晴らしい弦楽器奏者はその表現が多彩なので、できるなら生演奏でその体の動きを観察したいところです。オーケストラでも弦楽アンサンブルでもソロでも構いませんから、ぜひたくさん見て研究してください。


ということで、第4章はこの先、アーティキュレーション記号をひとつずつピックアップして解説して参ります。次回からは再び有料記事にさせていただきますが、それだけ価値あるものをご提供しますので、ぜひ引き続きご覧いただければ幸いです。


それでは、また次回!



荻原明(おぎわらあきら)

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