HPVワクチン、茨城県で高校1年女子家庭への個別通知が始まった

 茨城県でこの6月からHPVワクチンの接種対象女子(小学6年から高校1年)の家庭への個別通知が始まりました。茨城県が市町村に文書を出したことによるもので、特に最後の1年となる高校1年生には接種スケジュールも含めて伝えるよう要請されてます。市町村により対応はさまざまなようですが、高校1年生には少なくとも送り始めているようです。何とかこの流れを確かなものにし、全国へと広げたいものです。そこで、これをまずは地元茨城で報じてもらえるよう、つくば市に支局を持つ報道各社を中心に取材・報道を呼びかける手紙を書きました。以下はその内容です。

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新聞社つくば支局 御中

 つくば市在住の佐々木徹と申します。記事として取り上げていただきたい話題がありお手紙を差し上げます。

 6月に入ってから、つくば市をはじめ県内各市町村でHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の接種に関するお知らせが、定期接種対象の小学校6年生から高校1年生までの女子のうち、最後の1年となる高校1年生女子家庭に届き始めていることを御存知でしょうか。これは、茨城県が接種に関する情報を対象家庭に個別通知するよう5月に各市町村に文書を出したことに伴う動きで、2013年6月に厚労省が積極的な接種勧奨を控えるとの勧告を出して以来、県域の広い範囲で個別通知が始まったのは全国でも初めてと思われます。たいへんニュースバリューの大きな動きです。

 御存知かもしれませんが子宮頸がん、およびHPVワクチンについて概略をご説明します。
 女性のがんの中で子宮頸がんは生涯で約1.2%の方が罹患するほど多いがんで、発症すれば子宮の除去を含めた手術を余儀なくされ、不幸にして亡くなられる方も多くいらっしゃいます。年間およそ1万人が新たに発症し、2,800人が亡くなられ、近年増加傾向にあります。若くして亡くなられる方も多いことから“マザーキラー”と呼ばれることもある怖い病気です。
 かつては検診で早期に発見し処置することしかできませんでしたが、研究の進展により子宮頸がんのほとんどはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスに感染して発症することがわかり、ウイルスの感染を防ぐワクチンが開発されました。これがHPVワクチンで、日本では2009年に承認されて接種が始まり、2013年4月からは定期接種として小6から高1の女子は無料で接種できるようになりました。ところがちょうどその頃から接種後に運動障害や持続的な疼痛など様々な症状が現れたとする“被害者”が多く表れ、マスコミでセンセーショナルに報道されました。その結果、厚労省は2013年6月に積極的な接種の勧奨を当面控えるという勧告を出す事態となり、対象の家庭に個別通知が行われなくなったことから、一時は70%以上あった接種率は、現在1%を切る状態です。
 接種後に生じた“副反応”とされるものも接種との因果関係を示す証拠はなく、以前から若い女性に多く見られた症状との指摘もありましたが、運動障害のショッキングな映像は見た人々に強い恐怖心を与えました。こうした中、接種と症状の関係を明らかにすべく、名古屋市立大学の鈴木教授らが接種者と非接種者に対して行った広範な調査の結果、両者の間で症状の有無に差は見られず、諸症状が副反応とする見方を明確に否定しました(名古屋スタディと言います)。このほかにもワクチンの安全性については十分な研究・調査がなされ、何の問題もないことが科学的に明らかにされています。世界ではHPVワクチンの接種は広く進められており、WHOは日本に対して重大な問題として早期の積極的勧奨の再開を重ねて勧告しております。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会など国内の医療関係者もくりかえし早期の積極的勧奨再開を求める声明を発表しています。科学的には何の問題もないと専門家からみなされているのです。

 このような状況にありながら、厚労省は積極的な勧奨再開に踏み切っていません。理由の一つは副反応被害を主張する被害者の会や薬害として国を訴えている訴訟団の存在です。また、多くの報道によって作られた世論がHPVを受け入れる環境とはなっていないという判断があるようです。ただ、積極的勧奨が控えられて数年たった現在、多くの親はもはや副反応報道を知らず、定期接種であるHPVワクチンの存在すら気づいていないように思われます。その結果、多くの若い女性が何も知らされないまま無料で接種できる機会を失っているのが実情です。自ら知識・情報を得る二十歳前後になって初めてHPVワクチンの存在に気づき、接種を望んでも5万円前後の費用が重くのしかかって踏み切れない若い女性が多くいます。
 この状況を記者の皆様方、どうお思いでしょうか。記者の皆様はとりわけ社会正義に敏感であり、その実現を目指して仕事をされていると信じておりますが、これを放置してよいとお考えでしょうか。この問題に気付いている記者もいると聞きますが、なかなか報道機関として真正面から取り組んでいただけるところが少ないのが本当に残念です。
 そうした状況の中での今回の茨城県での個別通知の開始です。これは、つくば市を中心とする関係者が関係各所に働きかけた成果でもあり、つくば発の動きといってもいいと思います。科学の街つくばで起こったこの動きを記者の皆様、取り上げていただけないでしょうか。何の因果関係もないと分かった2007年のタミフルの薬害騒動と同じようなことが、HPVワクチンにおいて今なお続いているのです。是非、皆さんの手でそれに終止符を打っていただけませんでしょうか。科学の街つくばで起こった動きであるからこそ、皆さんの力で変える可能性を秘めていると思います。是非ともお願いします。

 つくばでのこの1年の動きを簡単にご紹介します。きっかけは昨年6月のつくば市議会においてHPVワクチンについて間違った情報に基づく質問がなされたことです。これを知った県外のある産婦人科医がツイッターにこのことを投稿し、それに気づいた私は市内開業医の坂根医師に相談しました。坂根医師も問題と考え、市当局や議会にHPVワクチンに関する正しい情報の提供を行う一方、牛久市の産婦人科医である長田医師を講師に招いた講演会/対話集会を昨年8月に開催するなど、市民、医療従事者への啓発にも取り組みました。さらに茨城県産婦人科医会はこの問題の国内専門家を講師に迎えた市民公開講座を昨年11月に開催し、近隣市町村の市民、保健師等医療関係者、また地方議会関係者など100名あまりに向けてHPVワクチンの正しい情報を届けました。
 こうした動きに呼応して、つくば市議会ではかねてこの問題に取り組んでいた議員達の中で公明党の山本市議が昨年9月議会で対象者に個別通知を行うよう市に質問しました。この時の市の答弁は積極的勧奨の差し控えという厚労省勧告に言及して慎重な姿勢を崩しませんでした。このことから山本市議は厚労省の対応を変える必要を強く感じ、同党の県議、参院議員の協力も得て昨年12月に厚労省担当者と直接面談して個別通知の必要性を訴えたそうです。その後、本年1月の厚労省の副反応検討部会は、「積極的勧奨にはならないよう留意しつつ、接種の方法(接種日時・接種場所等)を対象者に個別に送付する」ことの提案を了承しました。これに基づく都道府県への伝達はまだされてないようですが、茨城県においては2月に茨城県産婦人科医会と茨城県医師会が合同で茨城県と茨城県市長会・町村会に要望書を提出、田村県議が3月議会で厚労省の姿勢の変化も踏まえて県に質問するなどして働きかけ、今回の市町村への文書送付につながったようです。各市町村から対象者への個別通知の文書作成には、昨年11月の市民公開講座に出席した保健師たちの寄与もあると聞いています。

 以上が私の把握していることの進展のあらましです。今回の個別通知によって対象家庭はワクチンの存在を知ることになりますが、接種の是非を判断するのに十分な情報に接しているとは限りません。是非、上で紹介した医師や市議を直接取材いただき、HPVワクチン、子宮頸がんの正しい情報に導かれるよう、マスコミとしての役割を是非果たしていただけませんでしょうか。このつくば、茨城県における動きが順調に進めば、このうねりは全国に広がると期待できます。厚労省が積極的勧奨の再開に慎重な理由である世論を動かすことが可能です。正しい情報を伝える力を持っているのはマスコミです。これができるのはつくばの記者であればこそかもしれません。是非この問題を取り上げていただきたい。
 接種が進む世界各国では子宮頸がんの前がん病変件数が明らかに減少しているとの研究も次々に報告され、向こう数十年で子宮頸がんが撲滅できる可能性も指摘されています。接種率が1%を切る日本はひとり世界から取り残されかねない状況です。これを放置してはいけません。
 ワクチン接種の拡大を訴えると執拗な攻撃を受けることがあるため、発言するには相当な覚悟が必要です。関わられている医師、議員の皆さんの覚悟を思いはかってください。科学的に正しいことは何なのか、何が国民の健康、幸福にとって一番良いのかという視点から取材され、報じられることを切にお願い申し上げます。

 記者の皆様のご賢察を期待いたします。

                     つくば市 佐々木徹

参考資料

子宮頸がん、HPVワクチンに関する科学的な情報を伝える日本産科婦人科学会のサイト「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」
http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4

接種後の諸症状と接種の因果関係を否定した名古屋スタディの解説記事
論座「HPVワクチンと名古屋スタディ」(鈴木貞夫)
https://webronza.asahi.com/national/articles/2020012100004.html

HPVワクチンの接種機会を失った若者を支援するキャンペーンの発起人の一人、産婦人科医・高橋幸子さんのツイート
https://twitter.com/sakko_t0607/status/1268945127940042758?s=20

個別に送付するとした今年1月の部会資料を含む厚労省副反応検討部会の資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_284075.html
該当の資料「HPVワクチンの情報提供の目的及び今後の方向性について(案)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000590792.pdf

6,000万人を対象とした65件の研究によりHPVワクチンの接種によって前癌病変の減少が示されたと伝えるBBCのニュース(英文)
https://www.bbc.com/news/health-48758730

積極的勧奨再開に慎重な理由を語る当時の厚労省担当者へのインタビュー記事
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/shoubayashi-3


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