いずれ

 彼女は困っていた。群れを追われることになるとは予想外だったのだ。
 切っ掛けは彼女にできた斑模様だった。両の後足の基部に急に現れた斑模様は、走り回って餌を探したり、また天敵から逃げる際にその脚力を活かすことが出来る彼女らしい、蹄の模様をしていた。彼女は自慢げに家族や群れの仲間たちに模様を見せびらかしたが、彼らは怪訝な顔をすることはあっても、褒めるようなことは一切なかった。あれよあれよという間に彼女は群れの仲間に引き立てられ、牙を剥かれて群れから追放されてしまった。彼女から見ればそれは理不尽極まりないものだったのかもしれないが、群れから見れば、そんな得体の知れない模様が急に現れた個体を置いておくわけにはいかないし、もし伝染病だったらとすると彼らの反応は当然と言えば当然だった。
 彼女は既に成獣だった。食うに困るようなことはない。食べ物なら草原や森にいっぱいある。だが問題は天敵だった。監視役を担ってくれる群れの仲間がいなければ、天敵の発見には支障をきたす。彼女も理性で理解しているわけではなかったが、このままだと敵に襲われるという焦燥感には苛まれていた。ただでさえだだっ広い平原では、1頭きりで過ごす個体は非常に目立つのだ。今の彼女は天敵からすれば群れを追放された健康な個体と言うよりも、病気や老いでついて来られなくなった個体に見えることだろう。群れを追い出されて半日も経っていないが、餌を食べる時間を与えられなかったために彼女は空腹だった。とりあえず食べられる草を探したが、常に天敵に襲われる心配をしながらだと落ち着かない。結局、普段の倍の時間がかかって、ようやく餌を食むことができた。
 餌を探しているうちに、彼女は近くの森の外れまで辿り着いていた。そこには小さな洞穴があって、天敵がいないことさえ確認できれば体を休めるにはぴったりだった。彼女は洞穴に入って中を確認した。万が一大型の肉食獣や大型の爬虫類のような、恐ろしい天敵に見つかったら、すぐに逃げなければならない。不意を突かれるのは怖い。
 恐る恐る中を覗いてみると、洞窟の中には何もいなかった、だが何もないわけではない。洞窟の中は少しだけ明るくなっており、一番奥には淡い光を放つ小さな樹が鎮座していた。彼女は生来の好奇心から樹に近寄り、その幹に三輪だけ咲いている小さな花の蕾の香りを嗅いだ。
 それぞれの花がいきなり開いたのはその時だった。花の雌しべに当たる部分はそれぞれ違った形になっていて、そのうち1つは彼女の後足にできた斑模様、蹄の模様によく似ていた。彼女は少し不思議そうに花を眺めていたが、やがて何かの影が洞穴の入り口に現れたことに気づき、慌てて身を隠した。
 彼女によく似た種の2頭の雌だった。それぞれ翼と角が生えている。それぞれの種に対しては、別の種ということで群れにいた頃はお互い無視をしていた。彼女は少なくとも天敵ではないので、安心して彼らの前に出た。彼らが彼女の何かに気付いたような素振りをすると、程なくして彼女も彼らの特徴に気付いた。
 彼らの後足には、それぞれ翼の模様と角の模様が浮き出ていた。それは彼女の後ろにある、花に浮き出たものと同じだった。
 彼女は好奇心から彼らに近づいた。彼らも同じ特徴を持ち、同じように群れから追放された個体だったためか、彼女のことを受け入れることにしたようだった。寂しさという感情によって群れの必要性を感じていた彼女や彼らにとって、出会えたのは幸運だった。
 彼女たちは知らない。冬が近づいていることを。冬が終わるまでの間、彼女の種を含めた3つの種が混成群を作ることで、餌探しも天敵の脅威も厳しくなった草原において、生き残ることが出来ることを。冬が終わった時彼女らの種は決別するが、冬はまた訪れ、西にできた陸狭を超えた3種は、再び結束することを。彼女らの中に入り込んだ花粉が、彼女らを様々な面で助け、自らを殖やす準備をしているということを。
 そのまま一緒に洞穴の外へと走り出す。連れ合いには丁度良かった。
 彼女たちはまだ知らない。種を超えた初めての友情が、彼らをこれから生かし、繁栄させていくのだということを。
 遠い未来にポニーという名で自らを呼ぶ彼らが走る先は、いずれエクエストリアと呼ばれる広大な地へと繋がっていた。

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