年末

 「ヨナ、礼を言う。年越しの準備を助けてくれて」
 談話室の一角には、ヤクが年越しのお祭りに使うという装飾が並び、ここだけさながら異国の風景と化していた。
 「つっかれたなあ、ヤクって毎年こんなことやってんのかよ」
 「こういうことが談話室でできるのも、学校がすっからかんだからだろうね。ハースウォーミングイヴの休暇中でよかったよ」
 ソファで暖かそうにくつろぎながら、サンドバーが言った。一方でガーラスはヨナの実家から送られてきた重い荷物を運んだりしたせいか、くたくたと言った体でソファにもたれかかっている。本来だったら準備は数日前からするべきところを数時間で済ませたのだから無理もない。
 「このお祭りって、チョー最高よね、毎日やってもいいぐらい!ヒッポグリフにも年越しのお祭りがあったらよかったのに!」
 「流石にそれは勘弁して欲しいな、っていうか今までシーポニーだったんなら、日の長さとか季節の変化とか関係ないんじゃない?」
 「そんなことないわよ、水の温かさの変化とか、いる生き物とかで、きちんと暦はあるんだから」
 そう言うとシルバーストリームは季節によって見られる生き物を列挙し始めた。よくこんなに覚えられるのかと感心したけれど、ずっと海中暮らしだった彼らにとってはこの程度の生き物による季節の移り変わりは常識なのかもしれない。彼女曰く、従姉妹でプリンセスの子の方が、珍しい貝殻とかに詳しい分季節にも敏感なのだそうだ。スモルダーは以前のように彼女の早口にたじたじ、と言った風ではなく、慣れてきたのかある程度聞き流しているようだった。ドラゴンは年中暖かい火山地帯で、ほとんど1頭で暮らすから、あまり季節には興味がわかないのかもしれない。と言ってもヤクの飾り付けに興味が無いわけではなさそうで、時々横目で装飾に目をやっている。
 「チェンジリングは年越しやらないのか?」
 そう突然話を振ってきたのはヨナだった。私の方はというと周りと話しながらヤクの文化に関する本をちょっと流し読みしていたおかげで、若干面食らってしまった。そうしているうちに、ヨナが少し、何かに気付いたような顔を一瞬浮かべると、バツが悪そうな表情に変えて、小さな声で、ごめん、と呟いた。
 「気にしなくていいんです、私の国に年越しが無かったのは事実ですから」
 生存に必死で、女王の命令に従うことしか考えていなかった頃からそんなに経っていない。ハースウォーミングイヴと同じで、年越しの文化など形成されるに至っていないのは確かだった。ヨナやみんながあまり気にしないでくれるといいな、と静まり返った周囲を見て焦り始めた時になって、サンドバーが突然何かに気付いたように、わかった、と叫んだ。
 「そうだ、まだないなら作ればいいんだ!僕たちでチェンジリングの年越し文化を作ろうよ!」
 「それ楽しそう!ヒッポグリフの年越しに負けないぐらいのいいものにしましょうよ!」
 「ヨナ、賛成!ヤクほどではないけど」
 シルバーストリームとヨナも口々に叫んだ。ついでにグリフォンとドラゴンの年越し文化も作りましょう!と更に叫ぶシルバーストリームに対して、まあいいけど、とか、ちょっと勘弁して、と言った声も聞こえてくる。
 「チェンジリング、どうした?」
 いつの間にか目頭が熱くなってきていた。私は、世界の年越し文化の本を探してきます、と口早に言うとその場を去る。
 談話室を出て、前脚で目を押さえる。この涙がどうして止まらないのか、私にはわからなかった。

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