お祭りの日に

 “今日はどこで会う?”
 帰宅して早々に開いた画面にはダイレクトメッセージが表示されていた。ただでさえ外はお祭りで騒がしいと言うのに、何をするつもりなのか知れないが、浮かれているのは向こうも同じらしい。もっとも、私は浮かれてなどいない、全然。
 短く返信した後、すぐさまヘッドセットを着けて、一瞬の浮遊感、リフトやローラーコースターに乗った時のような引っ張られる感覚に身を委ねる。あっという間に、僕の目の前にはのどかな村の光景が広がっていた。僕の、否、僕たちのお気に入りのワールドだ。様々な種族のみならず、ハイブリッドや、架空の種族にだってなれるのがこのVRソフトの売りだった。
 季節は現実と同じく冬、当然現実の喧騒と同じく、ワールドには様々なデコレーションを模したテクスチャが貼られ、様々な種族でひしめき合っている。お祭りムードも最高潮と言ったところか、実時間と同じく昼間であるためか、村の雰囲気は更に煌びやかに見える。
 濃紺色のチェンジリングは僕の姿を認めると、随分遅かったじゃん、と軽快に呼び掛けてきた。彼は体躯が大きいので、アバターでごった返した中でもすぐに見分けが付く。その陰から、ちょっと恥ずかしそうに青い鬣のヒッポグリフが覗く。あまりこういう環境が好きではない彼女は、誰かの陰に隠れていることが多い。
 「ごめんごめん、他の用事で丸1日かかっちゃって」
 僕はそう言って軽く頭を下げた。そっか、忙しそうだもんね、と気遣うような発言をしたのはグリフォンの少年だ。僕たちの中では最年少らしいが、下手をすると一番しっかりしているかもしれない。ちなみに最年長なのはヒッポグリフの彼女らしく、大体の年齢を聞いたときは度肝を抜いた。敬語で話そうかなとも一瞬思ったほどだったっけ。ユニコーンの彼女はいつも通り、いやお祭りだからこそなのか、いつにも増しておめかししている。ヤクの青年は相変わらず無表情だ。根はやさしいのだがよく誤解されるってよく言っている。
 と見回しているうちにあることに気が付いた。ドラゴンの彼がいない。彼とはVRより前からリアルで友達同士なのだが、こういう集まりのまとめ役がまだ来ないとは珍しい。さっきのメッセージだって彼のものだったのに。彼はまだ来ていないの、と言おうとした時に、リアルからの呼び出し音が鳴った。まったくもう、と思いながら、他の面子に断りを入れて、ヘッドセットを脱いだ。
 「やあ」
 そう言って背後から声をかけたのは、他ならないドラゴン、否アースポニーの彼女だった。驚いて目をぱちくりさせているうちに、彼女は続ける。
 「ごめん、ちょっと窓の外を見てくれない?」
 混乱しながらも、言うがままに結露した窓を開けて、外の景色を見た。
 「サプラーイズ!」
 防寒着を身に着けて、窓の前にいた一団が叫んだ。黄緑色のチェンジリングに、青い鬣のヒッポグリフ、ヤクの少年に、ドラゴンの彼女。さっきまでアバターで会話していた面々が、リアルでそこにいた。まさか、わざわざ本当に来てくれるだなんて思いもよらなかった。
 「ハッピーブルームーンフェスタ!」
 アースポニーの彼女も叫ぶ。目に涙が浮かんだが、それを隠す気にはならず、かすれた声で、ありがとう、と言う。
 グリフォンであることを、そして、遠い先祖からの伝統を、これほど感謝した日は、今までなかった。時代が移り変わっても、そしてどんな形での出会いであろうと、本当の友情と言うのは存在するのだ。そんな気恥ずかしいセリフを、私は泣きながら思い浮かべていた。

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