略歴7_投資ファンドNPO②_カンボジア渡航前

前回:24歳。監査法人の仕事に不満があった。外銀コミュニティのTッチーさんに相談したらNPOを紹介され、それは投資ファンドだった。

この時期から、メールログや自分のノート、日記などがほぼ完全に残っているので、より詳細に書けるようになる。

僕が加入したとき、投資ファンドNPOは初めての投資を完了したところだった。そこでは次の新たな投資先を探していて、フィリピンの業界情報ベンダから紹介されたカンボジアの会社を投資先候補としていた。最初に見学として、次にメンバーとして参加した2回のミーティングでは、投資候補先から共有された情報をチェックしつつ、どのようにプロジェクトを進めるかについて、投資銀行や国際機関のメンバーを中心に議論をしていた。僕は、普段とは異なるビジネスとの距離に興奮しながら、手元のPCでわからない言葉を調べて、なんとかキャッチアップしていた。

話としてはつまり、これからすべき仕事は3つあって、先方と投資条件を詰めて投資契約を握ること、DDを実施し投資適格の心証を得てレポートを作成すること、そして投資候補先の現場に入り込んで実態を把握すること。ゆえに、実行する人間には、投資実務能力・DD実務能力・ビジネス英語・滞在時間・カンボジア農村滞在に耐えられる胆力と体力が備わっている必要がある。1名は、投資銀行に勤務している28歳で、いつも皇居ラン中と見紛う格好の、物静かな男性(この人がNPOの代表らしい)。すべて1人でやるのは難しいので、もう1名を探している、という状況だった。

話をふむふむ聞きながら、ナルホドよくわからないけど大変だな、みんな真剣だし、いい人見つかると良いな、と他人事に考えていた。(ちなみに、このスペックは東京ホワイト経済社会で最も見つけるのが難しい人種で、途上国金融機関専門投資ファンドが本業の1つになった今でも、彼と私以外発見できない。)2回目に参加したミーティングの後半、議論は、誰を派遣するかで煮詰まっていた。アメリカの有名大学院から国際金融機関を経てファンド企画会社という、いわゆるバリキャリな女性だなと(当時は)思っていた長身のSさんが、1番後ろで静かにしていた僕を見つけて、「そうだー、nagabotは会計士なんだからそういうのできるよねー?行っちゃいなよー。良かったーこれで解決ー。」と突然言いはじめた。語尾伸ばしつつ、上半身をクネクネ動かしつつ。クロスボーダーFAとDD実務能力は、FASで研鑽しないと、監査法人会計士には一切備わらない能力だ。専門能力への期待と実態とのギャップは、僕がそのNPOの最初の会計士だったので、仕方がない。個々の会計士に実装されている専門実務アプリケーションのバラツキは、当事者たる会計士の大部分ですら把握できていないのだから、業界の外にいる人達に理解を求めるのは現実的ではない。いわゆる途上国ハードルは、Sさんは世界中のエキゾチックなところで様々な活動をしていたため、一般的な基準と比べて著しく低かった。後年、もう1人仲間の女性Mと3人で丸の内ランチをしていて、「nagabotはマラリアに罹ったこともないのー?ホントお子様ー。」と2人からさんざんイジられた。(Mはナイジェリアでマラリアとチフスとサルモネラに同時に罹った。Mとの話はどこで詳しく書きたい)ただ、どんなにSさん有利に論理を積み上げても、当時の僕には、置かれている状況や周辺知識が不足していることは明らかであって、完全に無茶振りだ。客観的に評価をすると、このプロジェクトを遂行する専門能力と経験が無い。投資交渉やDDはできない。海外は、アメリカの高校に通っていただけで、仕事はもちろん旅行もしていない。興味がなかったので、途上国の様子を想像できず、そこで活動するには胆力や体力が必要だという事実を知らなかった。

そういった状況で、僕は知識の不足によって、前述したやるべき仕事、及びそのために必要なスペックを理解していなかった。逆に、人生で初めて能力を見込まれて仕事を依頼されているのだと舞い上がり、3週間後には、Visaを持たずOnArival用証明写真も持たずハノイ経由で辿り着いた深夜の薄暗いプノンペン空港で、ひとり立ちすくんでいた。

無茶振りは、振ったひとが責任を取ってくれる限りにおいて、ただただありがたい。こちらの全力を引き出してくれるから。一般的な期待以上の期待をしてくれているから。カンボジア渡航までの3週間、とにかくできることをやるしかないという意識で、急いで資料を読み漁った。現場を訪問する前に、手元にある資料と調べれば入手できる情報を用いて、会社情報サマリを作っておこうと考えた。会社比較情報サイトから同マーケットの企業をピックアップしてベンチマーク指標を作ったり、業界の専門書を読んで一般に合意された閾値を集めたりした。投資先候補は金融業で、僕が監査法人で携わっていた業種もまた同じだったので、幸いそれなりの前提基礎知識はあった。こうして、手法は素人ながら、目的や要求からの逆算で想像して仕上げた会社情報サマリと机上財務分析は、悪くない仕上がりになった(さっき読んでみた)。この成果物はM&AにおいてFAが作るIMに近いレポートだったが、当時は知らず、ただ必要と考え作った。チームで最初の会計士なので、僕の拙いナレッジ展開であっても、色々な職業の皆さんが大変感謝してくれた。純粋に、人からの感謝と期待に応えることをモチベーションにして、真剣に取り組んだ。

自分のベストエフォートだなと納得できる準備をして、いよいよ渡航した。僕が1人でプノンペンに深夜到着して1泊、翌朝投資先企業の担当者がホテルまで迎えに来てくれて、一緒にクルマで4時間程走り農村地帯にある支店にて3泊4日。そしてまたプノンペンに戻り、スケジュールの都合上そこからカンボジア入りする前述の彼と本店で投資交渉とDDを2日。残り3日はバッファとして、仕事だったり観光だったりに充てる、というプランだった。

これが、
「海外M&A仕事はどうやってはじめたのですか?」
「あの彼とはどうやって出会ったのですか?」
「海外投資ファンドの起業のきっかけはなんですか?」
「もともと東南アジアが好きなんですか?」
などなどの答えだ。知識と経験があると、失敗を恐れて、あまり高いハードルに取り組まなくなる。しかし、どんなときでも最初のハードルは高く、そのハードルを乗り越えようと全力を尽くすプロセスは、最も能力が伸びる時間であり、何よりそこが1番純粋で楽しいのだから、恐れずやってみたほうがいい。失敗するのが怖い気持ちはよく分かる。なので、少なくとも誰かが半ば強制的に無茶振りしてきてくれたときは、奇貨として飛び込もう。年取ったいま振り返ってみると、よくやったなと思う。(知識・経験・社会的な見栄が少なく、責任とってくれる年長者が多くいて、体力とモチベーション十分な若い間というのは、能力向上や楽しさ享受の観点から有利だ。なんとか押し戻さなきゃね。)

次回:「カンボジア農村にある金融機関支店で泊りこみDD」

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ナガボット1号

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nagabot

略歴

どんな略歴だったのか知ってもらえると仕事進める上で何らか効率的かなと /24歳まで記述済
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