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スタートアップネイション、イスラエル人の考えていること‐産めよ増やせよ

日本は出生率が低く、人口がどんどん減っているという問題に直面しています。
イスラエルは、2017年の合計特殊出生率は3.11人。200か国中58位ということで、ニジェール、ソマリア、コンゴ、マリなどのアフリカ諸国に比べたら低いのですが、それでも先進諸国の中では、かなり高い方です。
イスラエルの出生率がこんなに高いのは、宗教的な家庭の女性が、10人近い子供を一人で産むところも大きいのですが、今回は女性に子供を産ませるために、イスラエル政府がどれほど頑張っているかについて、いくつかの例をご紹介したいと思います。

さてこの「産めよ、増やせよ」というスローガン。
日本政府も第二次世界大戦中にこのスローガンを利用したらしいですが、もっとも古くこのスローガンを世に出したのは、ユダヤ教であると考えて間違えないでしょう。
聖書の創世記に書かれているこの言葉。ユダヤ人にとっては神とユダヤ人の間の契約と考えらえられ、これを実行することに大きな価値をおいています。ユダヤ教は基本的に布教をしません。ユダヤ人女性から生まれた子供をユダヤ人とするという定義なので、出産によってユダヤ人人口を増やすことは宗教的にも一大命題なのです。
もちろん、ユダヤ教を生活の中心と考えていない世俗的な人々にとっては、こんなスローガンは何世紀も前の自分とは関係のないことですが、それでもイスラエルでは「家族」が何よりも大切にされています。日本と比べれば個人主義で仕事の選び方や進路の決め方も何かと自由、女性も軍隊に行くなど先進的なイメージが強い国ではありますが、「女性に生まれたからには子供を産むのは当たり前」という考えは、日本よりも強く世間にいきわたっているでしょう。


最近の、ちょっと意識高い系の人はどうだか知りませんが(イスラエルにそんな人はいるのか???)、イスラエルのおばちゃんたちは、遠慮や空気を読むということを全くしません。子供がいない適齢期の女性に「いつ子供を産むの?どうして子供を産まないの?子供は?子供は?子供は?」とデリカシーのかけらもなく聞くのは当たり前。
私の友人のおばあちゃんが彼女の旦那さんに電話して、「私の孫はまだ妊娠していないの?あなたも精子の検査をしなさい。」と言い放ったという話を聞いて、私は度肝を抜かれました。
対して聞かれる若者たちも自分たちが子供の頃からそういう環境なのですから、聞かれて当たり前という感覚。上手にあしらっています。「慣れってこういうことなんだな~」と思う瞬間でもあります。


それでも、私の友人で50歳を過ぎて子供を持っていないイスラエル人女性がいます。彼女は離婚経験があり、現在は「結婚しない、子供を持たない」という生き方を選択しました。彼女に言わせると、「イスラエルという国は、ユダヤ人のための子宮と考えて間違えないわ。私が必死で稼いでいるお金は税金として、家族計画もなしに子供さえ生めばいいと思っている宗教家の子供たちに流れていくのよ。あの子供たちは私が養っているようなものよ。社会保障に関するもので独身の私に有利なものは何一つもない。人に会えば「子供はいないの?早く子供を作りなさい。将来悔やむわよ」。私の年齢を知れば「早く養子縁組しなさい。子供をもらいなさい」。そのどれもに興味がないと言えば変人扱い。もう、ほっておいてほしい。」
そんな彼女は長期海外出張の多い仕事を選び、1年の半分近くを海外で過ごしています。「家族がいなければ、こんな国さっさと出ているわ。」と言っています。
とにかく社会的に「女性は子供を産むのが当たり前」という価値観なのです。


だからこそなのだと思いますが、不妊治療も政府がものすごい勢いで後押しをします。世界の産婦人科界ではイスラエルの不妊治療は最先端ということでよく知られているようです。
私の友人に、イスラエル基準で見ると晩婚で、なかなか妊娠できない人がいました。彼女は41歳で第1子を妊娠出産。彼女の言葉を借りると、「ずーっと不妊治療していた。もう出産できないと思っていた。それでも保険適用だから、ほとんどただ同然の不妊治療だった。普通の国のように自己負担だったら絶対子供は作れなかった。」とのこと。彼女は46歳で第2子を出産しました。やはり同じく不妊治療を受けたそうです。治療そのものに対する経済的な負担がほとんどなかったのが救いだと言っていました。
イスラエルには不妊治療中の女性は解雇してはいけないという決まりもあります。もちろん一定期間ではありますが、不妊治療のために仕事を辞めるという選択肢を迫られることはありません。妊娠中の女性も解雇できません。それでも採用試験の面接で、妊娠しているか、妊娠する予定はあるのかなど、妊娠出産に関わる計画をたずねるのは禁止されているので、雇用側もうかうかしてはいられません。

それから、シングルマザーも人工授精も、日本よりはポピュラーだと思います。私の娘の友人は精子バンクの精子から生まれたのですが、子供の頃から母親にその事実を伝えられていて、彼女が小学生の頃、自分と妹の出生について説明をしてくれました。「お母さんの方針で、私も妹も同じ人の精子から生まれているから、お父さんが同じ姉妹と変わらないの。」とのこと。そのしっかりとした説明ぶりに、私は衝撃を受けました。
別の友人は人工授精をさせる仕事をしている生物学者です。人工授精は精子バンクの精子に限らず、妊娠が成功しない夫婦間でも不妊治療の一環として行われます。
これらは条件によって多少の違いはあるのですが、保険を適用させる選択肢があります。もちろん、結婚して子供を産むという人が多数なのですが、結婚しない女性でも「子供を産みたい」という女性に対しては、社会がものすごくお金をかけているのです。


もう一つが養子縁組。これももちろん条件がいろいろあるのですが、一定の条件を満たした家族は養子を家に迎えることが可能です。これも日本よりは一般的に受け入れられていると思います。もちろん大多数ではありませんが、私の知り合いや友人、親せきにも何人かそういう人がいます。彼らは普通に自分が養子であるということを知っているし、周りも「ああ、養子なんだ」という程度で、だから何ということもありません。養子に迎えられた子は、18歳になって成人すると自分の出生を確認する自由も与えられます。

そして子供が生まれれば生まれたで、女性の生活を支援することにも政府は力を入れています。もちろん問題なし、文句なし、完全な支援!というわけではありません。どちらかというと程遠いのですが、それでも正直なところ、女性の社会進出や出生率上昇のために具体的な策を何も持たない日本政府よりは、かなりしっかりと力を入れ、「女性の社会進出を促進しつつ人口を増やす」という目的に向かって何らかの策を打っていることは一目瞭然です。

例えば18歳以下の子供を持つ女性の収入税は同じ環境の男性より低く設定されています。女性の稼ぎが多い夫婦の方が、税金が少なくて済むという仕組み。女性が働いた方が得にできている。
育児休暇はとても短いですが、3.5ヶ月分は社会保険から給料が支払われます。会社でなく、本人でなく、社会が出産した人の給料を負担するのです。希望があれは会社は1年の休暇を認めなければならない。そして6カ月以内に復帰する場合はその人のポストを変更してはいけない。1年以上会社に勤めた人に対してはパートか社員かという区別はなく、出産する女性、全員が上記の優遇策を受けることが可能です。
男性が育児休暇をとりたい場合は、同じ条件でとることができます。その場合は女性側には育児休暇の優遇措置は適応されません。とは言え、実際に男性側が休暇を取る夫婦はほとんどレアケースだと思います。

3歳からの教育は基本的に無料。公立幼稚園なら3歳からただ同然の金額です。とは言え、公共の教育機関は時間が短く祝祭日も多いので、普通に働いている人は私営の学童保育や休暇用のアクティビティなどに多額のお金をかけることになります。
丸々2か月ある長い夏休みなどは、サマーキャンプ市場が大賑わいです。値段も内容もピンからキリまで。また、職場に子供を連れて出勤、職場が子供用のアクティビティを用意するということも非常に一般的です。
また、政府はシングルマザーの支援にも力を入れています。ヘブライ語では「シングルマザー」と言わずに「シングル親」と言います。現実として母親がシングルになる確率は多いですが、それでも離婚の際に父親も親権を簡単には放棄しないという現実もあり、実際にはシングルファザーも多いのがイスラエルです。離婚の際に一番問題になるのが親権。どちらも親権は絶対に手放したくないというスタンスなので、子供たちが「週の半分をお父さんのところで、残りの半分をお母さんのところで過ごす」というのは一般的です。


下記のサイトは労働省と厚生省が運営していて、公共教育施設による教育以外の子供の教育に関して、政府からどのような金銭的支援を受けることができるのかを簡単に調べることができます。サマーキャンプや学童保育、ベビーシッターや子供の習い事など、自分の収入と子供の年齢などを入力するだけで、返還金額がわかります。
https://salgamish.org.il/?gclid=CjwKCAjwyqTqBRAyEiwA8K_4O7VWwPP4lxaAEWsWyTZ8K8w3eYHQW-Fjlwx5yXCWgk6bENxxRNTwuRoC1VMQAvD_BwE

イスラエルはこのように、これでもか、これでもか…というほど人口を増やすことに力を入れています。これは、第2次世界大戦でユダヤ人が絶滅させられかけたことと、布教、改宗という選択肢がほとんどなく、子供を産むことでしかユダヤ人を増やせないという事実が大きく関係していると思います。
良いことか悪いことかは、私には何とも言えないのですが、「国家」目線で考えればその人口をコントロールする政策というのは正しく、イスラエルのように若い国であればそれが「増加」の方向に向いていて一定の効果を生み出しているということは、有能な政府であると言えるのでしょう。

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