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13日目:きかい【奇怪】→掌編小説

きかい【奇怪】
不思議なこと。あやしいこと。また、そのさま。きっかい。 「 -な事件」

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「上の階でさ、おっさんが孤独死したらしいんだよ」
イツキは、夕食の食器を片付けながら言った。
「上の階って、真上?」
久々のデートだから、あまり暗い話はしたくないけれど、興味本位で聞いてしまった。
「そうそう。風呂場で足滑らせて、頭打ってたらしいよ。隣の人がニオイで気づいたって。だから今、真上とその両隣は空室らしい」
天井を見上げるけど、その木目はいつもと何も変わらない気がする。
「イツキは気づかなかったの?てか、お風呂入るの気持ち悪くない?」
「ぜんぜん気づかなかったなぁ。俺、いっつも鼻つまってるし。風呂は、まぁしゃあないよな。そのおっさんも、たまたま一人で死んだだけの話だろ。大丈夫だよ。自分たちだって、そうなるかもじゃん」
まぁ、言われてみればそうかもなと思いつつ、自分の体温が少し下がったような気がした。

イツキに風呂に入れと言われたけど、1人で入るのが嫌で、狭い湯船に2人で浸かった。わたしの体は、イツキの大きな体の間にすっぽりと収まる。イツキのお腹や胸板に自分の背中をぴったりとくっつけると、温かくて安心した。

ふと、何処かから鼻歌が聞こえてきた。
「このアパート、本当に壁薄いよね」そう言う声も風呂場に反響する。
「仕方ないよ。木造だもん」背中から降ってくるはずのイツキの声も、風呂場に響いてどこから聞こえてくるのか分からない。

ガコン

何かが落ちるような音が、響いた。
「ねぇ、今の大きな音」自分の心音が少し早くなるのが分かった。
「上から聞こえなかった?」イツキの手を、ぎゅっと握る。
「さぁ、分かんなかったな」イツキの声は、変に間延びしている。
別の部屋の物音が反響してるだけで、上の階だと思ったのは気のせいだろうか?

ガコン

「ねぇ、絶対上から聞こえる」振り返ろうとすると、イツキがわたしを抱きしめて、彼の顔が見えない。
「ねぇってば」自分の声が、思ったよりも大きく響く。
「まぁしゃあないよ。大丈夫。自分たちだって、そうなるかもじゃん」
顔をあげたイツキは、穏やかに笑っていた。
自分の顔が引き攣るのが分かる。イツキの腕の中から逃げようとするけれど力が入らない。
湯船の温度が少しずつ下がっていく。
イツキの腕に守られながら、わたしはその場から、動けない。


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