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十七条憲法に見る聖徳太子の戦略思考

十七条憲法は、聖徳太子が604年に制定した憲法です。

今回は、十七条憲法を「戦略」という視点で読み解きます。

聖徳太子は、日本人のあるべき姿を実現するために、どのような戦略を十七条憲法に反映させたのでしょうか?

第一条の一般的な理解は「和を大切にせよ」

十七条憲法の第一条から三条は、以下となっています。

十七条憲法
第一条:和を以て貴しとなし (和を大切にする)
第二条:三宝を敬へ (仏と法と僧の三つを敬う)
第三条:詔を承けては必ず謹め (天皇の命令を受けたら謹んで従う)

第一条の条文で一般的に知られている意味は、「和を何よりも大切にし、いさかいを起こさないようにしなさい」です。

皆さんは、第一条には続きがあることをご存知でしょうか?

第一条には続きがある

十七条憲法の第一条の全体を見ていきましょう。以下は、読み下しと現代語訳です。

第一条の読み下し
一に曰わく、和を以って貴しとなし、忤うこと無きを宗とせよ。人みな党あり、また達れるもの少なし。ここをもって、あるいは君父に順わず、また隣里に違う。しかれども、上和ぎ下睦びて、事を論うに諧うときは、すなわち事理おのずから通ず。何事か成らざらん。

第一条の現代語訳

一にいう。和をなによりも大切なものとし、いさかいをおこさぬことを根本としなさい。人はグループをつくりたがり、悟りきった人格者は少ない。それだから、君主や父親のいうことにしたがわなかったり、近隣の人たちともうまくいかない。しかし上の者も下の者も協調・親睦の気持ちをもって論議するなら、おのずからものごとの道理にかない、どんなことも成就するものだ。

聖徳太子が第一条で言いたかったこと

第一条は、3つのことを言っています。

第一条のロジック
・協調性が大事 (和を大切にせよ) 。いさかいを起こさないようにせよ
・しかし、協調できるような人格者は少ない。皆で協調していくことは現実的には難しい
・従って、ものごとは話し合いで決めるべきである。その結論は正しく、必ず実現する

3つの構成は、あるべき姿・現実・解決策となっています。

あるべき姿
1つ目のあるべき姿とは、和を大切にし人々との間で言い争いなどが起こらない社会です。有名な「和を以て貴しとなし」は、日本人としてこうあるべきという理想を示しています。
現実
しかし、現実は協調性を持った人格者は少なく、必ずしも和は実現されていないと聖徳太子は続けます。これが第一条に書かれた2つ目のポイントです。理想に対して、現実はそうとは限らないと言っています。
解決策
現実をあるべき姿にするために、聖徳太子が解決策で示したのは話し合いでした。これが第一条の3つ目のポイントです。

ではここからは、第一条を戦略の観点で掘り下げていきます。

そもそも戦略とは何か

あるべき姿・現実・解決策という3つは、戦略を考えるときの基本となるフレームワークです。

そもそもですが、戦略とは何でしょうか?

私の定義は、戦略とは目的を達成するためのリソース配分の指針です。目的を実現するための「やること」と「やらないこと」です。

戦略をつくるにあたって、上位にあるのは目的です。あるべき姿や理想のために達成すべき目的を掲げます。

目的を達成するために「やること」と「やらないこと」が明確になっているものが戦略です。戦略を具体化した実行策が戦術です。

3つを並べると、目的 (why) - 戦略 (what) - 戦術 (how) です。

それでは、十七条憲法の第一条を戦略の視点で見てみましょう。

戦略の視点で見る第一条

第一条で書かれていることで、目的と戦略に該当することは、

第一条の目的と戦略
目的:和を大切にした争いのない社会を実現する
戦略:話し合いで皆で決める

これが、聖徳太子が戦略として604年当時の国民に示したことです。

聖徳太子が日本人に示した「戦略」

第一条において、話し合いで皆で決めたことは、道理にかない (常に正しく) 、どんなことも成就すると言い切っています。

戦略で、何をやるかと同じくらい、時にはそれ以上に重要なのは「何をやらないか」「何を捨てるか」です。選択と集中は、先に捨てるものを決める選択があるからこそ、やることに集中できるのです。

第一条を「戦略として何を捨てたのか」という視点で見ると、何が言えるでしょうか?

十七条憲法の第一条に直接は書かれていませんが、戦略としてやらないことは、話し合いによる決定とは逆のことです。つまり、一人による独断専行です。

協調性と話し合いを重んじることは、今なお日本人全体を支配している共通原理でしょう。ビジネスでは、会議で話し合う、たとえ直接話し合えないとしても稟議を通すなど、皆で決めることを重視します。

十七条憲法の第一条で聖徳太子が示したことは、現在の日本にも脈々と続いています。

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