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おもてなしは幻想?デジタル時代の顧客満足を高めるのは 「顧客努力の低減」

今回は、顧客満足についてです。

ご紹介したい本は、おもてなし幻想 - デジタル時代の顧客満足と収益の関係 です。

この記事でわかること

本書の概要
顧客満足をどうやって高めるか
顧客満足をブランディングの観点から考察

顧客満足をいかに高めるかは、あらゆるビジネスに共通するテーマです。ぜひ最後まで読んでいただき、仕事での参考にしてみてください。

この本に書かれていること

この本は、顧客ロイヤルティの考え方に一石を投じるものです。

テーマを一言で言えば、"顧客努力" を減らし、いかに顧客からのロイヤルイティが下がってしまうことを防ぐかです。

顧客に感動を与えるような対応よりも、顧客に手間や面倒な手続きなどの顧客努力を強いることを減らし、顧客のネガティブな感情をいかに減らすかです。

顧客のロイヤルイティを 0 → 1 や 1 → 10 とプラスの方向にするよりも、0 → -1 になるのをどう防ぐかです。

キーワード 「顧客努力」 とは何か

本書のキーワードの1つは 「顧客努力」 です。

顧客努力とは、顧客にとっての手間です。特に、困った状況や顧客が自分では解決できない問題が発生した時に、顧客がやらなければいけない手間のことです。

使い方がわからない、登録変更をしたい、解約や解除したいなどの状況です。発生する顧客努力は、自分で調べる、よくある質問 (FAQ) を見る、カスタマーセンターにメールや電話で問い合わせることです。

本書では、顧客努力を2つに分解して考えています。

実際に顧客がやらなければいけない手間と、その過程や終わった後に手間を 「どう感じたか」 です。後者は手間の解釈や感情的な部分です。

手間の解釈について、本書で興味深いことが紹介されています。

実際の手間よりも 「手間をどう感じたか」 のほうが2倍も影響があることです。手間をどう感じるかや解釈という主観的な要素が、実際にやったことよりも影響が大きいということです。

以下は、本書から該当箇所の引用です。

ほとんどの場合、"努力" とは何をしなければならないかではないのである。

確かに努力における重要な部分ではあるが、顧客の努力とは、主に顧客がどう感じたかだ。顧客に求められる労力は、顧客が自分の努力を評価する際の要素全体の 34.6% を構成するに過ぎない。

しかし、解釈という側面、すなわち人間の感情や反応に 100% 基づいた、よりソフトで主観的な要素が占める割合は、全体の影響の 65.4% と高い。

簡単に言うと、努力評価に際して顧客が最も重要視するのは、問題解決のために何をしなくてはならないかではなく、むしろ、やりとりの過程やその後でどう感じるかなのである。努力とは 「何をするか」 が3分の1、「どう感じるか」 が3分の2なのだ。

 (引用: おもてなし幻想 - デジタル時代の顧客満足と収益の関係

なお、引用内の数字の出典として本書に書かれているのは、「CEB, 2013」 「顧客4589名を対象」 「顧客努力の回帰ドライバ」 です。

顧客に求められる努力、顧客による解釈とは、それぞれ以下です。

努力と解釈
顧客に求められる努力:サービスエクスペリエンスの過程で行った手順や行動の回数 (影響全体の 34.6%) 
顧客による解釈:サービスエクスペリエンスの過程において、カスタマーサービス担当者のせいで顧客が持った主観的な印象 (影響全体の 65.4%) 

顧客の側に立つと、自分が問題解決のために何をやらなければいけないかよりも、それをどう感じるかの感情や印象が、その商品やサービス、企業への印象を決めるのです。

では、顧客からの不満や不信を下げるために、どうすればいいのでしょうか?

顧客努力を減らす方法 (2つ) 

ポイントは、実際の手間よりも顧客にどう受け止められるか、心理的な手間を最小できるかです。

本書で印象的だったのは、次の2つのやり方です。

顧客努力を減らすために
・「経験工学」 から顧客努力の心理的なハードルを下げる
・次に発生するであろう顧客努力を予測し、あらかじめ起きないようにフォローする

以下、2つについて、それぞれご説明します。

[方法 1] 「経験工学」 から顧客努力の心理的なハードルを下げる

経験工学では、以下の考え方をします。

経験工学の考え方
・相手の感情的な反応を予測し、それを見越した行動を取る
・顧客とのウィンウィンの解決策を目指し、積極的に顧客を導く
・相手のニーズと自分たちができることを一致させる

アプローチは、次の3つをとります。

経験工学のアプローチ

アドボカシー (支援):顧客の立場に立っていることを明確に示し、積極的な方法で支援する

肯定的な言葉遣い: 「いいえ」 や 「できない」 などの否定的な表現を避ける。有益な結果にならないと顧客が思ってしまうことを防ぐ

アンカリング:有益さや望ましさが劣る別の選択肢を比較提示し、伝えることの結果がより有益であると位置づける

手間への心理的な解釈を減らすために、「できないこと」 や 「できない理由」 を伝え自分たちの都合を押し付けるのではありません。「どのような解決策が可能か」 に焦点を当てます。

具体的には、「私ではこの問題に対応できません。販売部門に担当を変える必要があります」 と言うのではなく、「この件については販売部門の者がご協力できます。販売部に電話をつなぎますが、よろしいでしょうか」 と伝えます。

言っている内容は同じですが、受け取る側の印象は異なります。後者のほうが、前向きに捉えてもらえます。

[方法 2] 次に発生するであろう顧客努力を予測し、あらかじめ起きないようにフォローする

顧客努力が発生するのは、困りごとを解決しようとして自分でやってみて、それでも解決できないので調べたり問い合わせをしなければいけない状況においてです。

顧客努力を減らす・なくすためには、前もってこうした状況を予測し、先回りして対応をしておくことも有効です。

例えば、説明書を見ないでも直感的にわかりやすくすること、そもそもの顧客努力を不要にするような商品やサービスを使いやすくしておくことです。顧客から聞かれたり問い合わせがあった際にも、直接の問題解決だけではなく、次に起こるであろう問題についても一言アドバイスしておくことです。

思ったこと (2つ) 

ここからは思ったことです。2つです。

読んで思ったこと
・顧客努力と自分の体験
・ブランド視点からの考察

以下、それぞれについてご説明します。

[思ったこと 1] 顧客努力と自分の体験

商品やサービスに、本来は防げる顧客努力が発生することは、自分の経験に当てはめても、その商品やサービスへの不満につながります。

登録変更や解除、わからないことを解決したいのに、自分で調べたりやってみてもできない場合です。

ネットで調べたり説明書を見る、サイトの FAQ を見ても知りたいことは見つからず、チャットかメールで問い合わせをします。場合によっては電話から直接聞くこともあります。

いずれも、好ましいユーザー体験ではありません。そもそも起こらないほうがよく、発生したとしても自分ですぐに解決したいことです。

[思ったこと 2] ブランド視点からの考察

手間への心理的な負担が大きいほど、商品やサービスへの感情はマイナスになります。ブランドの観点で考えると、商品やサービス、その企業へのブランドイメージが下がります。

ブランドとは、人々や顧客から好ましい感情が伴った商品やサービスです。好ましい感情とは、好き・共感・満足感・誇り・憧れなどのボジティブな思い入れです。

感情移入は、ユーザー体験から起こります。体験から好ましい感情が蓄積されれば、その商品やサービスへのブランドは強くなります。

一方で、顧客努力が強いられ、手間に対する感情的な面倒さが残れば、ブランドは下がります。ロイヤルイティが低くなるというディスロイヤルイティにつながります。

なお、ブランドについては、別のエントリーで書いています。よろしければ、ぜひご覧ください。

最後に

今回ご紹介した おもてなし幻想 - デジタル時代の顧客満足と収益の関係 という本は、期待を上回り感動を呼ぶような 「おもてなし」 よりも、顧客努力をいかに減らすかがテーマです。

顧客への無用な手間と手間に対する感情面に注目します。顧客ロイヤルティを上げるよりも、ディスロイヤルイティをいかに防ぐかに焦点を当てています。

過剰なおもてなしからのサービスは割に合わず、ロイヤルイティやブランドを毀損させないために、どのような顧客対応が望ましいかを考えさせられる本です。


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