レイブン

打っても打っても
気持ち良くならない注射を
打ち続けている青年は
浴びるように
エナジードリンクを飲んでいる

大切な何かが壊れたあの日から
何をしても何を言っても
満たされない
心は
満たされない穴が
ぽっかりと空いたまま

空虚な空の下で
ただ絶望だけが増えていく

俺の悲鳴が好きな小悪魔が
今日もびっくり箱から
俺が嫌がるものを
投げつけてくる

キラキラと輝く
夢も理想も
かつての
お前の抱擁の前には
色褪せていく

あまりにも幸せすぎたのかも知れない
あまりにも不幸なのかも知れない
大空を飛べなくなった渡りカラスに
今日も故郷の空は遠く懐かしく輝いている

だいぶ歩くことが速くなったよ
葛藤の中で絶望から逃れるために
跳ねたり走ったりを繰り返している

君がイケボだと褒めてくれた声も
結局はわりとよくあるカラスの鳴き声でしかない

この頼りない足で、このよくある声で
海を越えて歩いて行けるかな
千葉の片田舎のこの町からじゃ
君の心まで歩いて行くのは
きっとスーパースーパーハードモード

別に良いじゃないか
僕の周りには綺麗なカラスが沢山いる
頑張ってる僕にぴったりの素敵なカラスが沢山いる
僕と君みたいなチグハグな関係じゃなくて
もっと自然に、もっと堂々と胸を張って誇れる
そんな素敵な存在がいっぱいるのに
なんで
なんでこんなに
涙が溢れてくるんだろう

なんでこんなにも心は
完璧な君を欲してしまうんだろう

少し歩くと息が切れるんだ
ずっと君と空を飛んでいたから
比喩とかじゃなくて夢の国の空を飛んでいたから

だから
とぼとぼと大地の上を歩いていると
あの空を思い出して胸がきゅうっと
苦しくなる

満天の星降る世界の最果てで
君と二人で旅をしたね
長い間君を求めてやっと出会ったのに

これから君との関係が良くなるかも知れない
そうはならないかもしれない
それは誰にもわからない

この漆黒の体では
クジャクのように周りを魅了することもできない
この漆黒の体では
青い鳥のように幸せを持ってくることもできない
不吉な鳥
一緒にいると君を傷つけてしまう
愚かな鳥

もしも神さまがいるのなら
なんで僕らを出会わせたのか
あの宝石のような声を聴かなければ
僕はまともでいられたのかもしれないのに
あの黒いプラチナのような髪を見なければ
ずっとこんなにも涙は流れなかったのに
心のこもった愛に触れなければ
僕はきっと今も
人を愛することの尊さを知らないまま

なんで
なんで

僕はこの夜に生まれたんだ

ずっと重低音が流れている
彼女は軽やかな音楽が流れる場所でダンスしている
ずっと涙で枯れたしゃがれ声で祈っている
飛べなくなった翼の傷が治って
また空を舞える日を心が願ってしまう

振り払え
振り払え
どうにもならないことが夜の中にはある
親友の猫が死んだときも
僕の力ではどうすることもできなかった
今回もきっとそれと同じだ

でも
でも
全ては終わってしまったのだろうか
まだ
心の中の苦しみを癒やす答えが
世界に用意されているのではないだろうか

例え何度傷ついても
例え何度不安になっても
君と出会ったときから
鳴り始めたメロディが
僕の中を風のように流れている

生きるって素晴らしいよ
生きるってこんなに素敵なんだよ
生きるってこんなにも奇跡でいっぱいで
喜びに満ちてるんだよ

君が教えてくれた
世界の真実が
僕の絶望しそうな心を支えている

君とまた愛し合えるのか
この翼は天高く飛べるのか
人の心をキラキラとした感情で
再び満たせるのか

それはわからないけど

この世界の片隅で
心を込めて歌います
心を込めて走ります
心を込めて羽ばたきます

届け
届け

届くかどうかはわからないが
俺の中の理想の愛に向かって
届け

君に似合う羽根飾りを用意して
僕は人生を旅するカラスになる
飛べない両翼を煌めかせながら

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