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日本代表vsベルギー代表から見る「世界との差」の正体を考えました

ロシアワールドカップは、ベスト8の戦いが今日始まりました。
日本代表は残念ながらベルギーに破れてしまい、日本サッカーにおける歴史的な瞬間である「ベスト8」の壁を超えることはできませんでした。

2点を先制し、同点にされてロスタイムに逆転弾を浴びて2−3にされてしまうという何とも悔しい敗退の仕方でしたね。私も、ゲームを見ていて2−0になった時には「このままうまく試合をマネジメントすればこのゲームは勝てる」と半分確信をしていました。あのゲーム、ベルギーは明らかに「勝てる」と見込んで多少ナメて日本戦に入っていたように私には見えました。

ヨーロッパのトップレベルでプレーしている選手からすれば日本代表とのゲームですから、少なからず相手を軽く見る部分は少なからずあることは想像できます。

しかし、格下とのゲームにはそれなりの難しさがあります。それはメンタル面のコントロールです。どこかしらナメて戦ってしまう自分、チームをピシッと締めていつものパフォーマンスを出すのは意外と難しいものだったりします。

規律の伴わないチームは、いかに優勝候補とも言えど亀裂が入れば崩れ出してくるもの。プレッシングを少しサボる、セカンドボールを拾いにポジションを修正しない、ということをアザールとメルテンスが始めてしまいベルギーのボランチの前のスペースが空くことになり、柴崎・香川・長谷部が楽にプレーできて、日本は攻撃のフェーズで中盤を有利にゲームを運び2−0まで持っていくことができました。

しかし、現実はそうではなくベルギーは日本の弱点を突いて点を重ねて勝利をもぎ取って勝ち上がって行ったわけです。私たち日本人サッカーの関係者は「なぜこの現象が起きてしまったのか?」を分析しなければなりません。

まず、64分にベルギーは2枚の交代を一度に行うことに加えてプレーのシステム構造を変更してきました。それまでは3バック-ダブルボランチ-両ウイングバック-2人のトップ下-1人のFWという布陣から、2人のCB-左右のSB-ダブルボランチ両サイドMF(右はフェライニが攻撃時は中でプレー)-アザールとルカクが前線でプレー、というように構造を変更してきました。

これで、フレッシュな選手を投入することとシステム変更でマルティネス監督の「行くぞ!」というメッセージがピッチに伝わったこととなります。0−2というスコアとともに、この交代でベルギーの選手はスイッチが入ったようにも私には見えました。


◆日本の失点は全てセットプレーから

さて、日本の失点のシーンを見て行くと68分の1失点目は右からのCKからの流れで浮き玉のクリアがペナルティエリア内に落ち、なぜか酒井は競合いを行かずフリーでヘディングをさせてしまい、それがゴールに吸い込まれて失点。このシーンは明らかに酒井が競り合わなかった判断ミスが一番の失点の原因です。

そして、2点目ですがこちらもCKからの流れの失点。ペナルティアークのこぼれ球を左サイドに展開され、アザールがあげたセンタリングをフェライニが頭で会わせてゴール。最後のクロスはアザールの個の優位性と、フェライニの高さという優位性を活かされて決められたゴールなので止めるのは難しかったかもしれません。

しかしながら、このCKがどうやって起こったかを分析してみると面白いことに気づきます。

71分、日本は左からの攻撃のCKを獲得しました。そして、ショートコーナーを柴崎と香川が行います。初めは2vs1の状況だったのでよかったのですがボールをもらった柴崎はコントロールを大きくしすぎてボールロストしてしまいます。そしてベルギーはカウンターに入ります。

このカウンターを止めようとハーフライン付近で乾が相手をファールで止めようとしますが、残念ながら振り切られてカウンターは回避できず。そのままゴール前までボールを運ばれてシュートを打たれますが、この時はなんとかシュートブロックをしてCKへと免れます。ここも、欲を言えば乾はファールでカウンターを止めるべきでした(相手のスピードが上回っていたので難しかったかもしれませんが)。

しかしながら、その後のCKで失点をしてしまうわけです。実は、3失点目と同じく2点目の失点も攻撃のセットプレーからのカウンターということがわかります。

そして、みなさんもご存知の3点目はCKをGKのクルトワにキャッチングされてそのままカウンターの第1波でフィニッシュまで持ち込まれて失点という形でした。ここで、飛び交う様々な意見を見ると「あそこは蹴らずに時間稼ぎすべき」というものもありますが、私はそう簡単な話ではないと考えます。

日本は、試合終盤に本田と山口を投入した後にコンビネーションからシュートチャンスを作り出して良い流れの中でプレーしていました。そのような心理状態であれば、ピッチ上の選手たちはCKを得れば得点を狙いにいきたいと思うことも十分に理解できます。

あのような多少なりとも勢いがある状況で、しかも延長戦で圧倒的なボール支配率を誇り得点のチャンスが山ほどあるというなら話は別でしょうが、あの状況はそうではありませんでした。

私としては、あの状況でCKで中にセンタリングをあげるという選択肢は許容範囲だったと考えます。

「しかし・・・」

です。

ワールドクラスのゲームではそのような時にこそ落とし穴が待っているものです。あの状況で、私的に本当に大事だったのはカウンターのリスク管理です。

後方の選手の警戒、ペナルティアークでこぼれ球を拾う役割をしていた選手がスプリントで戻る、必要であればファールでカウンターを止めるなど、そのリスク管理を90分を超えた時間帯だからこそ、チームでもう一度徹底することがあの展開では超重要です。


◆指導者も世界トップレベルの経験が必要

私も、スペインでリーグ戦を戦いバルサやエスパニョールといったプロクラブとの対戦で、格上相手に勝利まであと少し!というところまで追い詰めたのにロスタイムでやられるという何とも苦い経験を何度も経験していました。その度に考えさせられたのは、あの時何をしていれば勝利が手に入ったのだろうか?ということ。

目の前のチャンスが散っていくのは本当に儚いもので、しばらく頭の中に悔しさが残ります。

格上のチームに対して勝っている、要するに追われる展開のゲームでは相手は120%できますから残り時間が少なくなればなるほど体も脳も疲労が蓄積しますし、消費は物凄いものになります。

ですので、至るところで事故が起きない様にリスク管理を徹底してベンチから指示を出します。そして、それを選手が集中力をもって遂行できた試合ではバルサ相手にも見事に勝利を納めることができました(ちなみにバルサの育成は世界のトップクラスだと私は認識しています)。

世界トップクラスというのは、一瞬のスキに漬け込み結果を出してくるレベルで、チームはそれを踏まえてゲームをマネジメントすることが求められます。今回の日本代表には、その部分がベルギーに対してもう一歩足りなかったということだと私は考えています。

これは、選手もそうですが、指導者も海外でワールドクラスの相手と戦う経験、欲を言えばやられた経験だけでなく、勝った経験もあることがとても重要でしょう。

今のヨーロッパのサッカーはゲームの駆け引きのテンポも早いし、スキを与えたら一度でやられてしまう展開にまでレベルは上がってきています。そのような試合展開で的確な采配を振える監督やベンチのスタッフ、サッとリアルタイムで分析をしてピッチ上に変化を起こせる情報を渡せるアナリストが絶対に必要です。

それに加えて、4年後はもっともっとサッカーは進化して、もっと違うことが求められる時代になっているかもしれません。

今回のW杯から何を学ぶのか?
大事なことを私たちは学ぶ機会をベルギー戦からいただいたのではないでしょうか?


追伸、告知ですが『サッカー 新しい攻撃の教科書』絶賛発売中です。
おかげさまで、多くの方々に手に渡っているようで誠に嬉しい限りです。
ありがとうございます。
今回のワールドカップでも解説で大活躍の戸田和幸さんにも美容院にまで持ち込んでいただきました!w

さて、来週はいよいよ日本へのフライトです。

帰国後7月14日には早速、catorce(カトルセ)フォーラムのイベントにプレゼンターとして登壇させてもらうことになっています。テーマは「欧州の分析最前線」としてヨーロッパでのサッカーにおける分析の位置づけをお話させてもらおうと考えており、ただ今資料作りの準備をしています。

それではまた!

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