東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。

「ああ！！どうしてあんな無茶な仕掛けをしたのだアラミス！」

カウンターの隅でポロシャツが先日の帝王賞の結果を嘆いていた。
購入した馬券は、下心を見透かされたかのようにハズレ。ゆきえちゃんにいいところを見せたい！というポロシャツの野望は、はかなくも砕け散ったのだった。

「まさに山火賁。。。易ってのは恐ろしいな。。」

「え？　参加費？　なんですかそれ？」

「あ、いや、なんでもねぇ、こっちの話だ」

「？？　そんなことより、そろそろ大先生はいらっしゃいますかね？？　あっ！」

丁度その時、ガララと扉が開き、占い師が現れた。

「噂をすればなんとやら！　大先生お待ちしておりましたよ！」

いつしか定番の席となったカウンターの隅に、占い師は腰を下ろした。

「いらっしゃい。まずはビールですかね。のどを潤した後にはこいつを。。」

店主の健が取り出したのは七田の純米・雄町。佐賀の銘酒だ。

「いやぁ健さん、そいつはとても楽しみだ」

「すみません先生！いらしゃって早速なんですけど。。。今週もふたレースお願いしたいのですが。。」

「はいはい、承知しましたよ。銘酒に酔ってしまう前に卦を立てましょうかね」

「ありがとうございます！ではまずは、小倉で行われるＣＢＣ賞をお願いします！」

こくりとうなずくと占い師は、懐から三つのサイコロを取り出した。
静かに目を瞑り、ふぅ。。と大きく息を吐く。
チンチロリン！占い師の手から放たれた賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。

「内卦・巽、外卦・坤、変爻の賽は二。地風升の二爻、地山謙へ之く。が出ました。」

• 風を表す八卦「巽」の上に、地を表す八卦の「坤」が乗っているこの卦は「地風升」と呼ばれる

• 「巽」は木の象でもあり、地中から芽が出てすくすく成長する状況を表す

• 上昇、伸びる、昇る。道徳に従い素直に伸びることが大事。

• 卦辞は「升は元いに亨る。用って大人を見る。恤うる勿かれ。南征すれば吉なり」

• 二の爻辞は「孚あればすなわち、やくを用いるに利ろし。咎なし」

「一言で言うと成長や勢いを感じる卦ですね」

「なるほど。これはシンプルに伸び盛りの3歳か。05は騎手も今年の新人トップの呼び声高い今村聖奈で伸び盛りときたもんだ。こりゃ軸は決まったな。相手は03と08で」

「上昇イメージからすると3歳がイメージピッタリですね！　02は名前が姉御肌って伸びざかり感ないなぁ。。まるでさゆりママ。。。」

「おい」

「あ、いや、いい意味で。ですよ！　ボクも05から行きます！　南征…といっても関東馬いないし、之卦の「謙」の池添もいないし、他に上昇してる感じの馬もいないので。。。なんとなく緑の6枠の2頭で！」

「よし！すんなり決まった！　珍しくボクと健さんの意見が一致しましたね！　これがどんな結果をもたらすかですね！」

「うーん。。ちと心配だな。。」

二人の買い目の確定も早かったが、占い師が赤星の大瓶を空けるのも負けじと速かった。

「当たるも八卦当たらぬも八卦」

#12：福島のラジオNIKKEI賞に続く。