東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。

「さぁ！ お次は新潟のアイビスサマーダッシュです！　先生お願いします！」

「直線だけの競馬ですね。承知しました」

チンチロリン！占い師の手から放たれた賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。

「内卦・巽、外卦・坎、そして変爻の賽が一。水風井の初爻、水天需へ之く。が出ました」

「すいふうせい。。。井戸の井って『せい』って読むんですね」

「はい。この水風井という卦はですね…」

• 風を表す八卦「巽」の上に、水を表す八卦「坎」が乗っている

• 井は文字通り「井戸」のことで、巽＝木桶で坎の水を汲む象である

• 井戸は昔から生活に欠かせないもので人が集まる場所であるが常にきれいにしておく必要がある

• 卦辞は「井は邑を改め、井を改めず。喪うなく得るなし。往来井を井とす。ほとんど至らんとして、まだ未だ井につりいとせず、その釣瓶を破る。凶なり」

• 初爻の爻辞は「井、泥にして食らわれず。旧井に禽なし」

「…という、卦です。井戸をきれいにしていくお話になっていて、初爻はまだ、汚く濁った状態を表します」

「なるほど。。なんだか漠然としてて解釈が難しいですなぁ」

「ボクはピン！ときましたよ！　井戸はですね、アイビスSDの枠順を表しているんです！」

新潟1000mの直線コースは外側に向かって傾斜があり、外枠断然有利、内枠は外に持ち出す手間がかかるので不利。と言われている。

「1枠が井戸の底、8枠は井戸の入り口です。そして見てください、最悪の1枠1番、坂【井】瑠【せい】ジョッキーですよ！」

「。。。」

「井戸の底はまだ濁っている。ということは、やはりシンプルに外枠でいいのではないかと！というわけでボクの買い目はこちらです」

「解釈はどうあれ、ありそうな馬券ではあるな。よし俺もそれに乗ろう。ポロが選んだ3頭の馬連BOXで」

「これは。。。二人ともに当たるかもしれませんね！もし当たったら。。。鰻！鰻！」

「。。。ああ、そうだ。そういや江戸川競艇で今週末。国産のうな丼500円イベントやるって聞いたぞ。先着順らしいが」

「ええーっ！！その情報は本当ですか！？それは行かなくては！！」

「500円てのはすごいですね。江戸川競艇は昔通ってた高校が近いのでなじみがあります。私も行ってみようかな」

「え。。先生、江戸川競艇の近所の高校っていったら。。こないだ神宮で野球部が試合してませんでした？」

「ええ、残念ながら昨日負けてしまいましたが、日曜は私も応援に行ってましたよ」

「えっ！？」

「えっ！？」

「え？」

こうして今日も下町の夜は更けていく。