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【易競馬#10】一方その頃。。帝王賞2022その2

東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。

「そうですか。大将は残念でしたが、ポロシャツさんは、なにか不思議な運を持っているのかもしれませんねぇ」

火曜の夜に珍しく健の店を訪れた占い師が、先日行われた宝塚記念の結果を聞いてそうつぶやいた。
宝塚記念の購入馬券が全額返還となったポロシャツは、ここでひとしきりその話を熱弁した後、

「じゃ、ボクはママのお店に移動します! ゆきえちゃん、今日はいるかなぁ~えへへ」

と、にやけ顔で健の店を後にしたのだった。
占い師が訪れたのは、そのわずか数分後だった。

「そうかもしれねぇです。あいつはいつもあんな調子なのに、なんかしらねぇけど場をパッと明るくする才能がある。馬券だって別にうまいわけじゃねぇのに、ここぞ!ってときは的中させるんすよね」

「へぇ、そうなんですか。やれ守護霊とか、やれ天に守られてるとか、私はそういったオカルト的なモノは否定してるのですが、彼のようにその立ち居振る舞いが周囲を明るくさせていると、結果的にいい人が集まってきていい相乗効果が生まれるものだ。。ということはわかります。もちろん、そんな彼を許容してくれる大将と、このお店がその一因となってるのは言うまでもありませんが」

そう言って占い師は、清泉・特別純米をくぴりと飲んだ。

「先生。。うれしいこと言ってくれるじゃねぇですか。グラスを開けてください。次の一杯はサービスです」

健は占い師の言葉が心底響いたようだった。

「それは悪いですよ。。いつもごちそうになってしまって。。。」

「いえ。それと、大将ってのはやめてください。健でいいですよ。見たところ、先生とは同世代とお見受けしてるんで」

空になったグラスに、2杯目の清泉が注がれる。

「私も先生はこそばゆいのでやめてください。同世代ならなおさら。。とはいえ呼び名が思い浮かびませんね。。」

「いえ。。これでも一応、長いこと客商売やってますんで、先生ってのもある種、あだ名みたいなもんですよ。ポロシャツみたいなね」

「なるほど、それなら合点がいきました。では健さんこの一杯のお返しにひとつ占いますよ」

そういって占い師は懐から易の賽を取り出した。

「うーん。。といってもこれといって占ってほしい事柄は。。あ、明日、大井で帝王賞っていう大きなレースはあるんですけど、自分、南関には手を出さないことにしてるんで。。」

若い頃、健は南関競馬で痛い目にあったのだが、その話はいずれ。

「ああ、そうだ、ポロシャツの恋の行方なんてどうですか。アイツ、今、お熱になってる娘がいるようでしてね。今日はいるかなぁ~なんて目じり下げながらうちを後にしたんですよ」

「ほうほう。若いってのはいいですね。では、卦を立ててみましょう」

そう言うと、占い師は静かに目を瞑り、ふぅ。。と大きく息を吐いた。
チンチロリン!占い師の手から放たれたふたつの賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。

「内卦・離、外卦・艮、山火賁の卦が出ました」

「さんかひ。。参加費??ああそうか、その子目当てに店に来てくれるいいお客だってことか」

「くくく。。あいや失敬。いやいや、健さんそれは辛辣だ。山火賁はですね。。」

  • 火を表す八卦「離」の上に、山を表す八卦「艮」が乗っている

  • 山の下に火=文明があり、草木を明照文飾する、すなわち「飾る」という意味である

  • 飾ることは節度を持っていればよいが、度を超すとよくない

  • 卦辞は「賁は亨る。小し往くところにあるに利ろし」

「。。という卦です。恋愛に関する事柄を占ってこの卦が出た場合は、『好きな人にいいところを見せたいがあまり、自分を飾りすぎるのはよくない。あまり背伸びをせず、ありのままの自分で勝負しましょう』とアドバイスすることが多いですね」

「へぇ。。なんだか今のアイツがいいところを見せよう見せよう!って躍起になってるのが想像できるなぁ」

「まぁ彼なら大丈夫でしょう。自然体でいれば、いつか、彼の本質に気づいてくれる人が現れるはずです」

「そんなもんですかねぇ。。。あ!こないだの宝塚記念、全額返還になったポロはまさしく『参加費(さんかひ)』じゃないか!」

「ふふふ、健さん、流石ですね」

その時、さゆりママの店でポロシャツが、大きなくしゃみをしたとかしなかったとか。

「びえー--っくちんっ!!」

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