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【易競馬#05】ユニコーンS 2022

東京は下町。
隅田川のほとりにある、カウンター数席の小さな居酒屋。
絶品の酒と肴に吸い寄せられるよう、今日も今日とて常連が集う。

「あー!なんなんですかデットーリは!覆面取るのに手間取って大出遅れとか信じらんないですよ!」

三杯目の酎ハイを煽りながら、先日のプリンスオブウェールズSの結果を愚痴るポロシャツであった。

「まだその件引きずってんのかい。って、お前さん100円しか買ってなかったじゃねぇか」

「金額の問題じゃないんですよ健さん!ブックメーカーはあの馬券を払い戻ししたという話も聞きますからね!公正競馬とは一体なんなのかと!あ、ナカおかわり」

この店の酎ハイはホッピーと同じように、寶焼酎のナカと炭酸のソトを注文するスタイルなのだ。

「ポロよ、今日はぼちぼち引き上げた方がいいんじゃねぇか?土日の予想に影響するぜ」

「そうはいきません!今日は金曜じゃないですか、占いの先生がくるまで帰りません!」

「やれやれ。。しょうがねぇなぁ、確かにあの先生は金曜はだいたいいらっしゃるけど必ず来るってわけじゃ。。」

ポロシャツを何とか帰らせようと健が苦労していると、店の扉がガララと開いた。

「お、噂をすればなんとやらだ。いらっしゃい」

入ってきたのはポロシャツが待ち望んでいた占い師だった。

「先生!!いや、大先生!大明神!先週は本当にありがとうございました!!」

「???なんだか事情がつかめませんが。。。どうやら歓迎されてるようですね?」

占い師は今週初めての来店ということで、ポロシャツが80倍の馬連を仕留めたことなど、事の顛末を聞いてようやく合点がいったようだった。

「お役に立てたようでよかった。でもね、ポロシャツさん。何度も言うようですが、当たったのは『たまたま』ですからね、当たるも八卦当たらぬも八卦。たとえハズれても結果を受け入れて、ダメージを受けない範囲で楽しむことが一番大事ですよ」

「もちろんです!というわけで。。来店即でなんなんですけど。。早速今週の重賞レースも占っていただけませんでしょうか?? そのために健さんもとっておきのお酒を用意してるようなんで!」

「てやんでぇこの野郎、勝手なこと言いやがって。まあとっておきの酒があるのは事実なんでね。先生、今日はこいつをいかがですか?」

店主の健が手にしていたのは鍋島・純米大吟醸。佐賀の銘酒だ。

「(な、鍋島!?しかも純米大吟醸とは!!)し、仕方ないですねぇ。今回も特別ですよ」

美味しい日本酒にはめっぽう弱い占い師であった。

「ま、実はですね。そんなこともあろうかと、今日はこいつを持ってきたんです」

占い師が手にしていたのは漢字が書かれた八面体のサイコロだった。

「乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤。八卦が書かれたサイコロです。前回はコインで陰陽を出しましたが、今日はこの賽で卦をだします」

「へええ。そんなサイコロあるんですね!なんだか神秘的な感じだなぁ。で、では先生!まずは東京で行われるユニコーンSをお願いします!」

ポロシャツからレース名を聞いた占い師は静かに目を瞑り、ふぅ。。と大きく息を吐いた。
チンチロリン!占い師の手から放たれたふたつの賽は小皿の上で小気味の良い音を立て、止まった。

「内卦・乾、外卦・坎、水天需の卦が出ました」

「す、すいてんじゅ?なんだか七福神に居そうな響きですね。してこれはどのような卦なのですか?先生」

「水天需という卦はですね…」

  • 天を表す八卦「乾」の上に、水を表す八卦「坎」が乗っている

  • 需は「待つ」である。雲(坎)が天(乾)に上り雨を待つ。焦ることなく時を待つ。

  • 卦辞は「需は孚あり。光いに亨る。貞吉。大川を渉るに利ろし。」

「へぇ~なんだかこないだの雷沢帰妹とは全然違って、大いなる大自然!て感じが浮かびました」

「なんだい、いっぱしの口ききやがって」

「いやいや、そうやってイメージすることは大事なんですよ。易の六十四卦はすべて『至極当たり前のこと』が書かれてるんです。それを占いたい内容にどう結び付けていくかってところなのでパっと浮かんだイメージは大事にした方がいいんです」

占い師に認められたと目を輝かせるポロシャツ。

「よーし!ではその水天需のイメージをユニコーンSに。。。って、はっ!!!」

「なんだいないんだい、もう閃いたのか」

「いるじゃないですか!水天需にピッタリの馬が!06水天ジュタロウが!!」

「確かにお誂え向きな馬名ではあるな。。」

「しかも調教師が河内洋で『大きな水』に関する感じが名前にふたつも!!というわけで、ボクの買い目はこちらです!」

ポロシャツの購入馬券

「06需タロウはいいとして、相手はどうやって選んだんだ?」

「水に関係ありそうな名前の騎手の08石川と11三浦、あと馬主が大川さんの09。それと需は『待つ』だそうなので15のまつ若と、道中最後方ポツンでじっと待ちそうな01横山典を」

「いつもだったらお前さん『当日は父の日だから14ビヨンドザファザー!』とか即断しそうなもんだが」

「父の日なんてみんな同条件のサイン馬券じゃないですか! いいですか健さん我々は先週から生まれ変わったんです!サイン馬券じゃなくて『易競馬』なんです!」

「うう。。結果出してるだけにぐうの音も出やしねぇ。よし、自分は『待つ』から連想して…」

店主・健の購入馬券

「怪我から無事に復帰するのを待っていた団野騎手の04の単複。まぁこれは応援馬券だな」

「団野騎手はボクも応援してるので復帰を待ってました!ボクも単複応援馬券買おうかなー」

(楽しそうで何より)二人のやり取りを眺めながら、占い師は鍋島の旨さに酔いしれていた。

「当たるも八卦当たらぬも八卦」

下町の夜は始まったばかりだ。

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