【紅白レビュー】米津玄師「Lemon」に見入った理由は“24カットの映像”にある

(トップ画像:米津玄師「Lemon」ジャケットより)

東京都北区の政治家・土屋和樹です。あけましておめでとうございます。

正月休みということで、今回は昔勤めてた会社・NHKの話題を。

紅白、見入っちゃいましたよね。特に自分は、テレビ初歌唱の米津玄師「Lemon」に感動しました。この中継を担当した美術デザイナーは昔お世話になった優しい先輩なのですが、圧巻でした。

さて、なぜ米津ファンだけでなく多くの視聴者が見入ってしまったのか。

当然、本人の魅力があってこそですが、今回ぜひ伝えたいのは、その魅力を最大限引き出した、メリハリのある映像のカット割りです。

中でも注目したいのは、その全カットのラップ、秒数です。

オンエア映像を観ながら算出したラップが以下になります。

丁寧に米津玄師を撮った24カット

フルコーラス演奏、4分40秒の楽曲を今回紅白では、24カットで撮影していました。平均すると1カットあたり11秒強。一般的な歌番組よりはカット数は少なめでゆったり割っています。ちなみに、再生2億回を突破した「Lemon」のミュージックビデオでは長回しのカットも多用していますが、29カット。それよりも今回はカット数を減らして、じっくり見せていました。

大事な入りでじっと粘る

長いイントロをカット①②のドリーでゆっくり本人の前へいざない、いよいよ待ち望んだ米津玄師の第一声。

カット③で、カメラは24秒間、米津の膝上ショットを撮り続けます。

「これが米津玄師か」「誰だこの歌手は」「ついに米津の生歌きた!」。

視聴者がさまざまな思いを抱く出だしで、他のことを考えさせないためにひたすら正面からただ撮り続けます。この「じっと粘る」ことで、冒頭から一気に米津玄師という個人へ引き込まれていきます。

以降Aメロ、Bメロも10秒ずつかけてゆるやかにスイッチング。

中継地・大塚国際美術館の美しい空間と、そこに並べられた大量のキャンドルをロングショットで見せて、世界観を少しずつ提示します。

そしていよいよ、日本中が耳にしたあのサビです。

サビで一瞬だけ見せる“2秒の叫び”

カット⑦で再び正面から米津を映します。有名な「♪あの日の悲しみさえ」の生歌です。でも、ちょっと物足りなくないですか?

それもそのはず、⑦は膝上サイズです。多分、もっと近くで見たいと渇望する思いがわいてきているかもしれません。

これはじらしです(笑)。じらしてじらしたあとに、高音の「♪あなたとともに」で待望の横顔アップがきます。でもこのカット⑧はわずか2秒。全24カットのなかでもっとも短いカットがここです。

たった2秒ですが、「Lemon」とって最も意味のある「あなた」という叫びを撮っているので映像に力があります。それを長々と映さず、最小限にとどめることでインパクトを与えました。

若干物議をかもした(?)、ダンスのインパクト

放送後の感想で意見が分かれていたのが、世界的ダンサー・菅原小春のコンテンポラリーダンスかと思います(自分はNoismなどコンテンポラリーダンスが好きなので興奮しましたが)。

これも印象が強く残ったのは、カット割りにあります。

ダンサーがフレームインしたあと、カット⑫の2番の入りを実は16秒も費やしています。もちろんこれは、ダンスによる世界観と奧で静かに歌う米津をつなげるためですが、いつまで経ってもインパクトのある踊りが目の前で展開していたので、好きではない人にとってはもどかしい時間だったかもしれません。

最長カット30秒で“荘厳なCメロを描く”

全24カットのなかで最長カットが訪れます。

2番サビ終わりからCメロにかけての、カット⑲の30秒です。

カメラワークは極めて静的です。キャンドル込みのロングショット。正面にはダンサーが座り、奧に佇む米津へ30秒かけてじわじわと寄っていきます。

静的なこの30秒の一枚絵の中には、さまざまな動きが仕掛けてあります。

歌はCメロに突入します。ライトチェンジもして、青の世界に変わります。そしてキャンドルを持つ群衆が静かに画面に入ってきます。ぞくぞくする瞬間です。

そうです。まるで教会のミサがはじまる直前の、あの厳かな時間とオーバーラップするのです。これを1カットで撮っているからこそ、絵画的な美しさが生まれます。

Cメロは高揚していき、心の叫びがピークに達する後半はカット⑳の横顔アップ22秒。ここは演出的には、キャンドルを持つエキストラが米津の後ろに並ぶための、いわば「時間稼ぎ」の意味合いもあるのですが、そういうことはみじんも思わせず自然に、魂の叫びを1カットで押しきります。

世界観を確立した“5秒の大ロング”

短いストリングスの間奏はカット21。階段(実際はエスカレーター)の左右に並ぶ人々が4秒のなかですーっとキャンドルを掲げます。鎮魂です。

そして迎えた大サビを、システィーナホールの最後部から大ロングで映します。

歌声とともに照明が転換し、ミケランジェロ「最後の審判」が画面いっぱいに明るく照らしだされます。

生と死の混在。人間への裁きと救済。

吊された緑の傘がまるで十字架のように見えた瞬間です。

こうした大ロングは、ここぞという時にだけ使わないとインパクトが薄れます。その切り札をこの大サビまでとっておいたのは当然計算です。

わずか5秒のためだけの大ロング。見事です。

あとはただ“救世主・米津玄師”を信じて映すのみ

そして地上へ降り立つと、米津のバックでは多くの群衆がキャンドルを掲げるシルエット。最初観たとき、泣きました。

カット23の29秒間、ここから一切ぶれることなく、群衆の中央で叫ぶ米津玄師へ静かに寄っていきます。その姿はまるで救世主です。

ディレクターの欲で横顔とか何か挟みがちなところを、愚直に1カットで押し切ったのは、ひとえに米津玄師の存在感を信じていたからに他なりません。歌番組でもっとも歌手を美しく映すのは正面からの全身カットですが、これは歌手に力がないと「観たいカット」として成立しません。

いつまでもいつまでも観ていられる29秒。そこには、米津玄師を信じる作り手の覚悟が宿っています。

ラストカット24。静かなアウトロのなか、美術館から天へ光が放たれて、「Lemon」は終わりました。

熱量こそが人を動かす

なぜ今回このレビューを書いたのか。

それは、この中継が緻密な計算のもとに設計され、入念な準備とリハーサルを経て、生放送で見事やりとげたことのすばらしさを伝えたかったからです。

ディレクターをはじめ現場で関わった作り手たちの熱量こそが、今回米津玄師を魅力的に伝えた原動力なのです。

近年、テレビ離れは進みつつありますが、この熱量があるうちはまだいいものを観られるはずです。

自分はそのテレビの世界から、同様に関心が低い政治の世界へ転身しましたが、「Lemon」の中継の熱量に負けないように頑張っていきたいと思います。

そうした思いを新年に誓うことができた、古巣の中継と米津玄師さんに心から感謝します。

(土屋和樹ウェブサイトを開設しています。https://tsuchiyakazuki.com

お時間ある方は覗いてみてください)


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土屋和樹@東京都北区あれこれ

平成の終わりに、会社を辞めて政治家をはじめてしまいました。1974年生まれ。東京・北区、王子五丁目団地に住んでいます。元NHK報道デスク。Twitterでは北区探検中。@tsuchiyakitaku / 政治アプリ・PoliPoliにも参加。
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