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上司は酒を飲んで寝てしまうし竹を取りに行く

古い昭和の名残みたいな会社で働いていた。70代の上司と事務員の私とで、拾った野鳥の雛を会社で育てる呑気な会社だった。

上司は町内会の上役をやっていてその関係で度々会社を休んだり半休を取ったりした。
ある時は新年会だとかで中抜けをして「一杯だけ飲んできた」と言い帰ってきて早々いびきをかいて寝てしまった。私はお酒を飲むからわかるけれど、この匂いは一杯ではない。ものすごく臭い。日本酒を5〜6杯いやそれ以上は飲んでいる。飲酒検問で「一杯だけ飲んだ」と嘘をつく犯人を疑う警察官の気持ちがわかった。
冬だったから暖房を焚いて室内は暖かい。暖かいに酒臭いがプラスされると周りの人間は気持ち悪いになる。いつもよりも換気を多めにした。

もう、帰んなよ。と思った。いつも真面目に仕事をしてるの知っている。新年会でお酒飲んでもいいよ。だからお酒飲んで眠いんだったら帰って家の布団で寝たっていいんじゃない?

目覚めたらそっと帰宅を推奨しようと思ったけれど上司は夕方までずっと寝ていた。起きたら「考え事をしていた」と言っていた。長い長い考え事だった。

夏には「町内会の関係で竹を取りに行くからちょっと先にお休みをもらうよ」と言われた。「竹、何に使うんですか?」と聞いてみたけれどよくわからなかった。竹の在り処を自分しか知らないし、毎年新しい竹が必要なんだということだけはわかった。

ある日出勤すると上司がいない。時間になっても現れない。予定のカレンダーをみると『竹取』と書いてあった。私はそれを見て『竹取物語』『竹取の翁』と思い浮かんでしまった。年齢的にも翁だと思ったら一人で可笑しくなってしまった。平安も平成も翁は竹を取りに行くのだと思ったら新鮮な驚きがあった。その日は翁が竹取でいないから伸び伸び仕事をした。

夕方になって翁は軽トラに乗って作業着を着て現れた。田舎では軽トラと作業着のおじいさんはセットで、そこに柴犬がいるとなお良い。平安時代で言うところの「いとをかし」ってやつ。でも残念ながら柴犬はいなかった。

「かぐや姫はいたの?」と心の中で聞きながら「お疲れ様です」と言った。竹は無事に取れたようだった。

そんな上司は異動してしまった。

noteを読んでみて、当たり前だけどどうやら仕事中に雛を育てたり酔っ払って寝てしまったりする人はいないんだなと思ってこれを書いてみた。
妙な思い出ばっかりある、そんな古びた会社で働いていた。

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好きだよ♡
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つぐみ

今と昔のこと。アイコンの女の子と髪型だけ似ています。

上司と部下シリーズ

呑気な会社

コメント3件

つぐみさんのところに初めてコメントをさせて頂きます。
最初に読んだのが『亡くなったおじいちゃんとすれ違った話』なのですが、文章が素晴らしいことにびっくりして、他の投稿も読みたくなり、気付いたらハートをたくさん押していました。
つぐみさんの文章は、自然で的確な比喩、抑制されて無駄がなく簡潔、という印象があり、これは自分がとても憧れている文章だと思い当たりました。主題がぶれずに明確なところも好感を持ちました。中でも『悲しいお葬式』や『本当はいい子なんだよ』という作品は心に刻み付けたい名作だと感じます。恋愛や夫婦をテーマにした作品も好きで、官能表現にもドキドキしながら楽しく読ませて頂きました。
今は「上司と部下」の一連のシリーズ(シリーズじゃないかも知れないけれど笑)が一番気に入っています。なので、代表してここにコメントを書かせてもらいました。
また読ませて下さい。新しい作品も楽しみにしています。
海亀湾館長さま、ありがとうございます。そんなに素敵に褒めていただいてどうにかなっちゃいそうです。

昨日コメントさせていただきましたが、実はもう少し言いたい事があったんです。「キスの勇気」だけじゃなくて「真面目な人」の一話目の後半部分タイツのあたりの官能的表現も目に浮かぶよう…と私はいやらしいので(笑)先の展開に引き込まれました。「ミッション」の第二次性徴期の男の子の気持ちや描写も含め、小説が書けるのすごいなぁと思っています。それにとても読みやすくていつも映像が頭に浮かんできます。
本来なら海亀湾館長さんのコメント欄でお伝えすることですが、こちらで失礼させてください。

上司と部下シリーズ読んでいただいてありがとうございます!コメントをもらってまた思い出したことがあったので書いてみたいと思います。

褒めてもらうのってこんなに嬉しいんですね。重ねて言わせてください、ありがとうございました。
わ! ありがとうございます。
小説は分量もあるので、読んで頂けるだけでも私はありがたいのですが、感想まで頂けて……。タイツも、ミッションも、本当に光栄です。ありがとうございます。

上司と部下、楽しみです。笑
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