Vol.4 『水なし印刷』って環境に良いの? その2

脱線している話はそのまま、世界の印刷産業と日本の印刷産業の発端や歴史についてのお話に続きます。
印刷産業の発端は15世紀ドイツのグーテンベルグの活版印刷機の発明から商用印刷として始まりました。日本では7世紀頃から木版印刷で仏教のお経の印刷から始まっておりますが、活版印刷機で活字組版で最初に刷られたのは42行聖書と言われています。そういう意味では印刷産業自体非常に宗教との関係が深かったことが推察されます。西洋ではキリスト教が社会の基盤になっているせいか、『神の言葉を伝える産業』という位置づけがあり、聖書という莫大な情報を世界中に広めることができました。片や、日本での印刷産業が広く知れ渡ったのは江戸時代であり、その情報というものは浮世絵であったり、かわら版と言われるゴシップ雑誌のような印刷が印刷業の始まりであったようでとても『神の言葉を伝える産業』とは社会的地位も信用も欧米諸国とは比べ物にならない存在であることに、被害妄想的な自虐感を覚えている自分がいて、印刷会社の跡取りとして生まれ、どっぷりと印刷業界に関わった人生を送っていると『印刷屋』という社会の底辺の産業のような感覚を持っています。
しかし、世界最古の木版印刷技術を持ち仏教の布教に一役も二役も担っている印刷業界なのにとても残念でありません。

そこで当時、思いついたのが『印刷業界の社会的地位向上』という目標でした。
60歳台以降の方には馴染み深い『男はつらいよ』シリーズの映画に出てくるのは『タコ社長』率いる中小印刷業の町工場。エアコンもない小さな工場にランニング姿の若い人が汗だくで働いている現場を見て殆どの方は3K(きつい、汚い、危険)職場だと思われているのは山田洋次監督の偏見であると憤りを感じる私ですが、実際には弊社はもちろんのこと多くの印刷会社は綺麗、安全、楽な印刷工場を目指して印刷工場としては進化してまいりました。そのうえで、もっと社会的な地位向上を上げるためにはどうすれば良いかを常に考えるようになっていきました。
ちょうど、1998年に西海岸の印刷会社を巡るJC(青年会議所)印刷部会のツアーに参加させてもらった時『21世紀は環境の時代』というキーワードを気づかせていただきました。
その時をきっかけに1999年『BUNSEIKAKU Ecology Printing System』『BEPS』を商標登録し、再生紙、大豆インキ、水なし印刷、ノリ綴じ製本等でトータルな環境対応印刷製品のブランドとして売出しを始めました。
当時、ちょうどCOP3(1997年12月に京都で開催された地球温暖化防止京都会議)が騒がれていた時期と重なり、『水なし印刷』は水も空気も汚さない環境に優れた技術である!という売り文句を『お題目』にして
環境問題に取り組む印刷工場というブランディングを掲げ、『下請け印刷業から環境対応コミュニケーションカンパニーへ』と変貌することで『印刷業の社会的地位をあげたい』と考えました。そう考えることでまずは『水なし』をやめようという周りの意見を封じ込めることができ、『文星閣のオリジナルの経営戦略』となり、同時に『印刷業界の環境問題のプロフェッショナルになる』という目標も定まり、21世紀の印刷会社像と経営計画の骨子を組み立てることができました。
しかし、実際の行動では計画性も、予算も適当であり、いろいろ取り組みましたが、実績を上げることができず、2年間が過ぎていきました。夢も理想もあったのですが実際の情熱と行動に欠けていたと今では反省をしています。
約二年間ありとあらゆる顧客にプレゼンに伺い、『どうせ作るなら、環境に良い当社のシステムでお願いします!』と営業したのですが、どこからも、一点も受注できずに時間が過ぎていきました。今、思い起こしても単に作る側の都合ばかりを優先し、お客様の状況も見ずにただ弊社の都合を押し付けていたのだと思います。
その他『日経エコロジー』という雑誌に1年近く広告を載せたり、登録商標から特許申請をしたり、いろんな取り組みをしましたが、どれもムーブメントを起こすことはできませんでした。
『BEPS』を売り始めてから2年後の春2001年だったと思います。当時東レの営業部長であった小川氏(現事務局長)より、『アメリカでWPAという団体が水なしのシンボルマークに『チョウチョ』を用いて、フォードの環境報告書の印刷を手かげた印刷会社の存在を聞きました。その後、名古屋の笹徳印刷さんがトヨタの環境報告書の印刷に水なし印刷が採用
されたことを機に当社もアメリカのWPAにいち早く加盟し、弊社もバタフライロゴを使って水なし印刷の受注が少しづつ増えていきました。


2001年9月8日シカゴのマコーミックプレイスにてPRINT01の東レブースでバタフライロゴを考案したアーサーとのツーショット

 ここでまたまた、少し脱線いたしますが、
  バタフライロゴを考案したアーサーにシカゴまで会いに行き、『なんでチョウチョなの?』と単刀直入に聞きました。
すると彼からは『オオカバマダラ』という種類の蝶は『環境のリトマス試験紙』なんだよ!
きれいな空気やきれいな水がないと生きて行けないため、アメリカでは『その土地に人が住めるか住めないかを見極めるためチョウチョを放して1年間様子をみるという習慣があり、このオオカバマダラというチョウチョは北半球を移動しながら生息地増やしていてそのチョウチョがきれいな水ときれいな空気があるところだけに繁殖している状況をみて、人が住める土地なのかを見極めているという話があり、世界中にこのチョウチョの生息地を増やすシンボルとして『世界中に羽ばたかせたいんだ!』というストーリーを聞き、私はえらく感動いたしました。
その時から『自分のやっている印刷という事業でこのチョウチョを世界中に印刷物に付けて羽ばたかせてあげたい』という強い想いを持つことになり、水なし印刷を広めることが私のライフワークそのものとなった瞬間であり、今に至っています。
  
  大手企業の環境報告書、CSR報告書、事業報告書等、今では水なし印刷採用率は60%を超えている状況を見ましても、環境印刷=水なし印刷が根付いてきている実感はありますが、まだまだ『水なし印刷』の認知度は低いという認識もあり、世間の皆様の環境に対する意識の低さも課題であることには違いはありません。
しかし、『水なし印刷』=『環境に良い』のは間違いありませんし、水なし印刷が普及する世界こそ環境意識が高くなった世界であり、現在で言われる持続可能な社会に必要な認識であると確信しております。
(Vol.4 ここで完了です。VOL.5日本WPAの発足 に続く


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