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「検索すればある写真」と「自分のエピソードがのった写真」 ~古代メキシコ展で考えたこと~

7月16日(日)。
家から最寄り駅まで歩けば、下着が汗でぐしゃぐしゃになってしまう暑さの中、上野の東京国立博物館へ出かけました。話題の特別展「古代メキシコ -マヤ、アステカ、テオティワカン」をみるためです(9月3日終了)。

大学生のころ、旅行で行ったイギリス・大英博物館のアフリカ民族資料の展示をみて感じた、未知との遭遇感、人智を越えてる感を味わえるんではないかと胸を高鳴らせながら向かいます。

上野公園に入ると、道行く人は強すぎる日光を避けて、大半は日陰の中。日向には人がほとんどいません。

でも国立博物館に近づくにつれ、目の前を歩く人の数が増えていきます。さすがにこの日は日曜日、会場はとても混んでいました。発券所には長い行列。

係の人がスマホでチケットの申し込みをするとスムーズにはいれますよ、と教えてくれたおかげで、行列には並ばずにさささっと入場できました。汗びっしょりになった下着をトイレで着替え、快適な状態になって、展示室へ。

ひさびさに抱くわくわく感。
しかも、すべて写真撮影OK。

このとき、ぼくは写真をはじめて5か月。当初よりはだいぶ撮り慣れてきていたので、今日はたくさん写真を撮ろうと意気込んでいました。

ノリノリで写真を撮っていたのですが、ふと気づきました。こういう写真、検索すればいくらでもでてくるな、と。

幡野広志さんのワークショップ「いい写真は誰でも撮れる」で、幡野さんが参加者の方の質問に答えていたときの言葉を思い出します。

検索してネット上に何枚もある写真をわざわざ撮らなくていい」
自分のエピソードがのっている写真をとるのがいい」

まわりを見回すと、多くの人はみんな同じようにiPhoneを構えて、同じような距離で写真を撮っています。それぞれが撮った写真を比べたら、たぶんどれもほぼ同じようなものになっているはずです。

同じような写真が世の中にたくさんあるなら、それをぼくが何枚も撮らなくたっていい。それにそういう写真をあとで見返しても、「古代メキシコ展いったよなぁ、懐かしいなぁ」くらいの感想しか出てこないんじゃないだろうか。

さきほど自分でこのnoteにアップした写真は、古代メキシコの土器や石像のおもしろさを確認したり、他の誰かとそのおもしろさを共有したりすることはできるかもしれません。でも、ぼく自身のエピソードはきっと語れない。というかあれらの写真をぼくはあとで見返すこともないかもしれない。

自問自答し、気持ちを切り替えて、「写真を撮りたい」という気持ちはだいじにしつつ、「『古代メキシコ展』と検索しても出てこない写真」で「エピソードを語れる写真」をこの会場で撮ってみようと思いました。

なかなかうまくいかない。

来場者は多いし、会場も広いので、だんだん疲れてくる。どんどん展示をみる意欲がなくなり、どんどん早歩きになり、どんどん写真を撮らなくなっていく。結局、展示の後半はかなり流して見て、展示室を出ました。

とりあえずいったん座りたい。
建物1階の広間の両サイドにぽつぽつと置かれていた、低い革張りのソファにばさっと座りこみました。

前を見ると、ぼくよりもだいぶ疲れ切った一組の夫婦が向かいのソファに座っていました。ぼくと同じように人混みの中を歩くのに疲れてしまったのでしょう。思わずシャッターを切りました。

「『古代メキシコ展』と検索しても出てこない写真」で、「ぼくのエピソードがのっている写真」とは、こういうことなのかもしれないなと思いました。



【お知らせ】
★幡野広志さんのエッセイ『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』が8月23日に出ました!
家族のこと、病気のこと、写真のこと、旅行のこと……1枚の写真とともに綴る、日常に寄り添った51のエッセイ。古賀史健さんとのロング対談も収録。

★11月に幡野広志さんの「写真撮り方の本」が出ます。
大好評のワークショップをベースに幡野広志さんが渾身の書き下ろし。詳細は追ってご報告いたします。

★幡野さんのワークショップはまだまだ続いています。
9月のワークショップまでは埋まっていますが、10月以降は順次開催される予定です。and recipe のHP(https://andrecipe.tokyo/store/5256/)や幡野広志さんのTwitterをチェックしてみてください。心からおすすめです!


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