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小説『洋介』 17話

喧嘩したあの日からしばらく。
平和が続いていた。
変わらない毎日が心地よい。
楽しい。

その日もいつものように、学校ではのんびりとした時間が流れていた。
すると昼休みに前の席から洋ちゃんが振り向いて話し始めた。
少し困ったような悲しそうな顔をしている。

「なぁ、死んだらどうなると思う?」

 びっくりして、黙ってしまった。
どうしたんだ。
洋ちゃんは真剣な目をしている。

 何かあったのかな。
そういえば、ここ最近なんとなく洋ちゃんの元気がなかった気がする。
普段からはしゃいだりするタイプではなかったけど、寂しそうに見える瞬間があったんだ。

 詳しく聞いていくと、最近、飼っていた犬が死んだという。
僕んちのぺスのことが頭に浮かんだ。
十三歳と犬の寿命としては十分だったらしい。
ある晩、長い時間吠えていたと思うとスッと死んでしまった。
足も弱り元気もなくなっていたので兆候は前からあった。
そのため、死ぬことはある程度予測はできたが、冷たくなっていく体を触り、力がなくなり、生気のなくなった顔を見ると涙が止まらなかった、ということだった。

洋ちゃんは静かな調子で、
「おれはあんまり泣かん人間やと思っとってん。
 映画とか漫画とかそういう話でも泣いたことなかったし、
 去年ひぃおばあちゃんが死んだって聞いた時も、なんかモヤモヤしただけで涙は出んかった。
 でも今回はなんかな、違ってんよなぁ。
 実際に目の前で見て、気づいた時には涙が流れ出してて止まらんかってん」
 と言った。

たしかに洋ちゃんが泣いている姿はあまり想像できない。
洋ちゃんは続けて、
「そしたらな、急に死ぬってことが身近に感じてさ。
 死んだらどうなるんやろう、とか、
 死ぬまでどうやって生きればいいんやろう、とか延々と考えてもうてさ。
 なんか暗い気持ちになってもうてさぁ。なぁ、どう思う? 
 こんな恥ずかしいことお前にしか話せへんねんけどさ。
 なんかお前やったら真剣に答えてくれそうやから」

 グッと心が重くなった。
自分が考え込み、深く沈んでいったあの時期を思い出した。
あの時に出せなかった答えは、当然まだ見つかっていない。
難しい。
でも真剣にこたえたい。
そうすればあの時の自分も救われる。

「ちょっと考えてみるわ」
 そうまっすぐに洋ちゃんの目を見て言った。

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