見出し画像

小説箴言 3章a

僕(悟)は次の日から朝、ゴミ拾いを始めた。
誰かに好かれたいんじゃない。褒められたいんじゃない。
ただ昨日の美しい夕日の感動を再び味わいたいのだ。

早朝にはたくさんのおじいさん、おばあさんとの出会いがあった。
僕は彼らが、なんて優しいんだと感動した。
彼らは僕の心を何一つ殺さなかった。
こんな僕の話を真剣に聞いてくれた。
そして僕の存在そのものをとっても褒めてくれた。

その姿勢に「聴く」そして「愛する」ということを教えられた。
教えられるとは教えることだと思った。

大きな川にかかった橋の下、河原に咲いた小さな花に、大きな力を感じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少年院での生活は灰色だった。
自分の愚かさを知るには十分な苦しみだった。

虚しい作業が続き、隠れたところでの暴力に怯えた。
その中で輝いていた頃の自分を思い出した。

あの頃は自信に満ち溢れていた。
今を楽しんでいる自信があった。
暴力こそ正義だと悟った。
混沌こそ面白さだと悟った。

しかし、今、その生き方の虚しさを痛感している。

俺は間違っていた。
あの時の笑いは、あの時の快感は、今なんの意味があるのだ。

塀のそばに咲いている小さな花を見つけた。
なぜかそこに、大きな力を感じた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朝のゴミ拾いを始めてから、僕は不思議な充実感に包まれていた。
周りの人は、親も友達も、誰もこのことを知らない。
そのことが妙に心地よかった。

ゴミを拾うたび、誰かの優しさに触れるたび、心が潤っていった。
いつも「ありがとう」といってくれる綺麗な白髪のおばあさんがいた。
ある日の「ありがとう」に、「こちらこそありがとう、、、!」と答えた。

綺麗な空を見上げて、すこし走りたくなった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
規則正しい生活が始まって10日が経った。
何の楽しみもない生活の中で、何か心が軽くなっていっている気がする。

初めの筋肉痛の時期が終わると、体はむしろ元気になっていった。
夜はぐっすりと眠った。

少年院に入る時のじいちゃんの涙を思い出した。
思い出すたびに心が締め付けられる。

初めての給料はじいちゃんに送ってくれと言った。

看守にそれを告げた時、
不思議な元気が湧いてきた。

大好きなブルーハーツの歌が頭に流れた。

誰かに金を貸してた気がする。
そんなことはもうどうでも良いのだ。
思い出は熱いトタン屋根の上。
アイスクリームみたいに溶けていく。


前の話はこちら
初めから読みたい場合はこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?