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小説箴言 5章

5章

あの頃、じいちゃんは俺(龍)に言った。
「おい!よう聞けよ!!
 調子に乗るなよ!調子ええことばっか言ってんなよ!!」

あの女に会ったのは中1の夏だ。

年上の女に誘われついて行った。
初めは刺激的で、魅力的な、甘い言葉と匂いに、興奮した。
その気持ちよさに浸った。

しかし、しばらくして俺は、沼にハマっていっている心地がした。
俺はなんとか這い上がろうとしたけれど、あいつはどんどん闇にひきづり込んだんだ。

友達には、どんどん悪くなる顔色を心配された。
じいちゃんはそんな俺を叱ってくれた。

俺はその言葉を蹴散らしたけど。

どんどん付き合いも悪くなり、友達も離れていった。
金はなくなっていき、学校からも離れていく。
たまに行った時の大人たちの見下げる目は忘れられない。
今思い出すと灰色だ。

「あぁ、あの時、
 じいちゃんの言葉を聞いていれば、
 真剣にぶつかってくれたあの言葉に耳を傾けていれば、、、
 あの時、仲間のあいつらにも悪いことをした。
 あの時の俺は最悪だった。」

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僕(悟)は自分のことしか考えず生きてきたのかもしれない。
誰かのために生きたことはあるのだろうか。

巻物にはこうあった。
『自分の井戸から水を飲め。
 それを自分だけのものにしろ』

ひどいと思った。
でも同時に僕のことだと思った。
僕は自分の幸せしか考えていなかった。
自分とお父さんお母さんが思う幸せしか。

しかし、今日は僕に革命が起こった。
一目惚れをしたのだ。

それは朝のことだった。

ひっそりと今日もゴミを拾う。
ある程度綺麗になったところで、ふぅと川のそばのベンチに腰を下ろす。

静かな空気の中で、白い息が空に消えていくのを見ていた。

その時、土手の上を歩く音がしたから振り返ると、
そこにあの子がいたのだ。

驚くほどに美しかった。

その子の後ろ姿が見えなくなるまで目で追っていた。

その日は一日中、その記憶を反芻していた。

僕は恋愛をしたことがない。
しかし、彼女以外は考えられないことがわかった。
これが夢中になるということか。
どうして他の女の子を見れようか。
どうして他の子のことを考えられようか。

神様、どうか、どうか。
あの子と僕を出逢わせてください。

この祈りが夜の日課になった。

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