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【SD】2022年サンディエゴパドレス総括(投手編)

まずはこの動画をご覧いただきたい。

サンディエゴパドレスの1勝3敗で迎えたナショナルリーグ優勝決定戦(NLCS)第5戦、フィラデルフィアフィリーズ主砲ブライス・ハーパーの逆転決勝2ランをうっかり目にするたびに、ワモンアザラシの赤ちゃんの引っ越しを見て心の傷を癒している。去年ロッキーズに3連敗した時もそうだった。

2022年シーズン

さて、今季パドレスについての総括はこちらである。

まさにFelixさんが書かれたとおりである。こっちがアザラシを見て惚けている間に、今季のまとめだけでなく補強ポイントまで書かれている。あらためて書く事がない。困った。おまけにプレーオフで間が開いたおかげで記憶が色々上書きされ、現ガーディアンズのオースティン・ヘッジスがプレーオフのシャンパンファイトで披露していた砂鉄の磁力線実験みたいな腹毛しか思い出せない。

お口直しにまず月ごとの勝率だ。

フェルナンド・タティス・ジュニアバイク事故による手首骨折で欠くも、チームは前年に続き開幕から好調。エリック・ホズマー例年通り春から好調。しかし7月に急ブレーキがかかり月間負け越し。この頃にはエリック・ホズマーも例年通り二塁ゴロ。昨年の大失速がファンの頭をよぎったが、正規の大トレードで抑えと打者を大型補強。一時はワイルドカード圏外に落ちるもどうにか89勝73敗のNL西地区首位ドジャースに22ゲーム差の2位、ワイルドカード2位で2年ぶり、また162試合制では2006年以来となるプレーオフ進出に成功した。

プレーオフの戦績は以下の通り。

ナショナルリーグワイルドカード 対ニューヨークメッツ 2勝1敗
ナショナルリーグディビジョンシリーズ 対ロサンジェルス・ドジャーズ 3勝1敗
ナショナルリーグ優勝決定戦 対フィラデルフィアフィリーズ 1勝4敗

レギュラーシーズン101勝のメッツと111勝のドジャースを破り、1998年以来初めてNLCSへ駒を進めたが惜しくも敗退。同年以来のワールドシリーズ進出は露と消えた。

投手陣

防御率3.81(ナショナルリーグ15球団中5位)
投手fWAR NL6位

先発投手

Source: FanGraphs (min. 50 inn.)

前回レギュラーシーズンの短評でこう記した。

太字の胸毛は無視して良い。この反転した「投手陣が持ち直し」というくだりに沿ったのは、実は9月の先発三本柱だけという極めて限定的な投手だけであった。

月別の先発投手fWARは次の通りだ。

シーズン通してのfWARはNL6位と、ビッグネームが連なる面々の割には突出していない。

先発投手が好調だったのは6月迄、ローテーション6人制だった頃だ。しかしこの後新人マッケンジー・ゴア(夏にフアン・ソト獲得の為ナショナルズへトレード)のコマンドが悪化。球速も低下しフォーム不具合の再発も疑われた。また開幕直前に補強したショーン・マナイアもチェンジアップのコマンドが甘くなりERAが球宴前の4.11から後半は6.44に悪化。ちなみに後半戦の先発投手の低fWARは主にマナイアとトミージョン手術上がりでかつ膝の靱帯を怪我し球速低下とコマンド低調に苦しんだマイク・クレビンジャーに依るものである。5年$100MMの契約延長を球宴後に結んだジョー・マスグローブも夏バテの様相を呈した。

彼等と対照的に後半戦好投を見せたのはブレイク・スネル。昨年の内転筋の怪我が長引き出遅れた事に加え、恒例なスロースターターぶりを今年も披露。球宴前5.22だったERAは後半戦スライダーの割合を増し2.19と、リーグ屈指の活躍ぶりだった。12.02K/9という高奪三振率は、120イニング以上登板した先発投手の中ではカルロス・ロドン大谷翔平を凌ぎ両リーグ最高である。

ブルペンデーを後半戦に先発序盤炎上を多発していた昨年とは対照的に、パドレスの先発投手イニング数はNL1位の901.0。主な理由は先に述べた先発6人制、そしてダルビッシュ有である。

9.11K/9はキャリア最低の数字だが、6回以上3失点に抑えるクオリティスタート数が昨年の13から25に倍増。これは先のローテ6人制やボブ・メルビン監督の起用法による影響だけとは言い難い。まず無走者時の打者からはやみくもに三振を狙わずストライクゾーンで勝負し球数を使わない。そしてランナーを出してしまった後は球数を要しても三振を奪いに行く。無走者時9.00なK/9は9.31に上昇した今年のsplitは、ランナーを背負った時に三振が減るキャリア通算(走者無11.13有10.35)の傾向とは真逆である。

また走者の有無は被本塁打にも影響している。無走者時1.14のHR/9は、走者有りだと0.79に低下。そして得点圏に走者を背負った33イニングに至っては0.00HR/9、カーブを駆使し一本のホームランも許していない。ちょっと距離が足りなければヒットどころか外野フライに終わることも多い被ホームランは三振や四球に比べ偶然性が高いこともあり、ダルビッシュ自身もソロホームランを打たれることについてはあまり気にしていないとコメントしていたが、走者が二人以上居る可能性が高い場面では走者なしの場面に比べフライ率が12.0%減少している。

先発投手についてまとめると安定したイニングイーターに徹したダルビッシュ、球種を絞り後半立て直したスネル、夏場にカーブで空振りが奪えなかった以外は安定していたマスグローブというビッグ3が4番手以降の低調さをカバーしたシーズンだった。この3人が来年も残留が決まっている点は心強い。

リリーフ投手

Source: FanGraphs (min. 20 inn.)

fWARはNL6位の先発投手に対して、リリーフはドジャースとブレーブスに次ぐNL3位である。リリーフ陣最高年俸のドリュー・ポメランツが上腕の手術で全休しているにもかかわらず見事な成績だ。前阪神のロベルト・スアレスがMLBデビューの開幕戦で大量失点しディネルソン・ラメットが乱調だった4月を除いては総じて安定していた。

トレード期限直前にブリュワーズからトレードで獲得したジョシュ・ヘイダーが良くも悪くも目立ったが、年間を通して最も貢献したリリーバーは先発から転向したニック・マルティネスよりもチーム最多64試合登板のルイス・ガルシア。しばしば安打を許している印象を持たれているかもしれないが、BABIP.325はキャリア平均.309を上回るため、運が味方しなかったと言えるだろう。

抑えは開幕直後に獲得したテイラー・ロジャースが序盤好調だったが、夏に入るとスライダーのコマンドが荒くなった。変化量を求めた代償か膝の怪我が原因だった可能性が挙げられている。

パドレスは8/1の獲得前、ブリュワーズで乱調だった頃からヘイダーのフォーム異変に気付いていたという。両爪先が安定しないまま上半身で勢いを補おうとするため軸がブレて制球難に。 8月上旬に大量失点し一時的に抑えを外された後、ルーベン・ニエブラ投手コーチとベン・フリッツブルペンコーチの助けで本塁側への体重移動を促すフォームに調整し復活を遂げた。

マルティネスとナビル・クリスマットは1試合当たりのイニング数が1を上回っている(1.14と1.09)。先発不具合の緊急登板もあっての数字だが、彼等がロングリリーフを務めたことは、他投手への負担減少に繋がるので個人成績以上の働きを残したと言えるだろう。

エイドリアン・モレホンも同様に試合数を上回るリリーフイニングをこなしているが、4ピッチを投げられる資質からすると先発向きだ。しかしトミージョン手術上がりで23歳と若いため大事を取ったかスポット先発をさせなかった。ただ来季先発候補に名乗りを上げるには苦手な右打者の攻略が鍵。左打者相手よりも三振は獲れるのでポイントはボール球を追わせ本塁打をいかに減らすか。今年あまり投げなかったナックルチェンジを外角に放れたら投球の幅が広がりそうだ。

先述のスアレスは膝の手術明けの八月以降は制球が安定。前半戦5.01だったBB/9が後半戦には2.96に、ERAも3.09から1.48に改善し終盤はヘイダーに繋ぐセットアッパーとして活躍。

また注目したいのはティム・ヒルの低奪三振率だ。2022年NL投手の平均奪K/9は8.63、リリーバーに限れば9.03。2年連続低下傾向にあるがまだまだ高奪三振率に留まる中、ヒルのK/9はなんと4.69。この数字は今季40イニング以上登板したNLリリーフ96投手の中で最低、1950年代後半の水準である。それでも3.56ERA/3.47FIPに納めている理由は4シームを減らしシンカーを増やしたことによるゴロ率(60.0%)の上昇と、キャリア最低の2.63BB/9とHR/FB率(2.8%)。

先発投手がイニングを稼いでいるのでリリーフの投球回数はNLで2番目に少ない。昨年はジェイス・ティングラー前監督が先発の早上がりを好み、また後半に先発故障者続出でジェイク・アリエータビンス・ベラスケス出涸らしFAに頼らざるを得ずも頼りにならずリリーフ陣の酷使と不調を招いた。その惨状に比べると今年は比較的ゆとりがあり、著しく低成績なリリーフ投手を緊迫した場面で渋々登板させるという試合も殆どなかった。むしろ敗戦処理に使うには勿体ないのでウィル・マイヤーズが4試合登板したくらいだ。

今後

昨年の先発fWARはNLランク先発10位とリリーフ8位で、共に後半大失速の原因となったためアップグレードはプレーオフ進出への必須条件だった。シーズン前にリーグ最強とも噂されたネームバリューの高さからすると正直物足りないが、先発6位リリーフ3位に改善。夏のトレード期限に弱点を露呈していながらも補強できなかった去年と比べれば一応の結果は残した。

今シーズンオフは先発のマナイアとクレビンジャーがFAになる。二人とも低迷した一年を送ったので短い期間で再契約の可能性もありそうだが、先発4‐5番手は今季の弱点かつ今オフ最大の補強ポイントなので様々な選択肢を模索するだろう。今オフはジェイコブ・デグロムとロドン以外のFA先発投手層は薄いので、上記二人でなければトレードか。マイナーから昇格しそうな投手は完全トレード付与前に何が何でもホズマー放出トレードでレッドソックスから獲得したジェイ・グルームくらいしか居ないが、彼も最早トッププロスペクトではないので最初はロングリリーフかスポット先発というリース・クニーアの様な使われ方をされるのではなかろうか。

リリーフはピアース・ジョンソンと2017年からパドレス在籍の投手最古参クレイグ・スタメンがFAに。ジョンソンは肘の腱炎で4月下旬から9月上旬まで欠場し5.40ERA。4シームの球速とカーブの落差が低下しており、来季の契約は黄信号か。スタメンは退団だけでなく引退の可能性も報じられている。全盛期はセットアッパーとして活躍したが、今季最後の登板は体調不良のクレビンジャーに代わり緊急先発したレギュラーシーズン最終戦だった。試合前、ペトコパークで家族が自分を観戦できる最後の機会かもと自宅で涙を堪えたという。3イニングで5失点という振るわない内容だったが「プレーオフで投げる投手たちが登板せずに済むようにしたかった。役目は果たせたと思う」と裏方に徹したコメント。

またマルティネスとスアレスの元NPB移籍組が選手オプションを持つ。どちらも好成績を残したのでパドレスが早めに契約延長しなければおそらくオプションを行使するだろう。マルティネスは先発登板を希望しているようだが、打順1-2-3巡目のERAが2.86-4.66-6.55、BB/9が1.64-6.98-6.55とあからさまに悪化するのであくまでリリーフ起用の前提が無難だろう。いずれにしても両投手ともキープしておきたい投手だ。

シーズン前から投手陣より課題が山積みだった打者については次回。

サムネイル画像元
https://www.kyouzai-j.com/blog/2021/06/post-1576.html


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