キュレーションメディア炎上の「欺かせた」問題

少し前の話だけど、DeNAの「WELQ」を始まりとして、いくつかのキュレーションメディアが閉鎖や大半の記事の非公開化に至っています。著作権上の問題、不正確な医療情報発信の危険性、記事の粗製乱造を前提としたビジネスモデルの倫理性などが議論されているようですが、多くの人に「欺かせた」ことも一つの問題だったように思われます。

ライターの「モラル観」が崩壊する

これをとりあげたニュース番組「ユアタイム」に次の一幕がありました。

田中さんは「インターネットは、あまりにも信用し過ぎないようにしていただきたいかなっていうのは思います」と語った。

私たちがこの社会で、犯罪に過度の警戒コストを払うことなく生活できているのは、法律による禁止や警察による取締りなどがあり、犯罪を縁遠いことと感じられるからではないかと思います。社会のモラルはある程度守られていると信じられるから、とも言えます。同様に、偽情報に過度の警戒コストを払うことなく情報に接することができるのも、倫理規定や消費者庁などの壁があり、情報社会のモラルもある程度守られていると信じているのだと思います。

そうしたモラルを前提にした私たちの「情報リテラシー」は、「しっかりした運営元による定評あるサイトを選べばインターネットに欺かれることはまずない」「いたずらにインターネット情報を敬遠する必要はない」というところかと思います。しかし今回問題になったサイトは、DeNAをはじめとする社会的知名度のある企業が運営し、2016年6月時点でWELQは631万人、おなじくDeNAのMERYは610万人、Find Travelは500万人の使う定番サイトで、信頼できるはずと思えるラインでした。

それでも私自身は、やはり情報社会にはある程度のモラルがあり、今回も自浄作用が働いて、今後も過度にインターネットを警戒や敬遠しなくていいと思えます。しかし記事の粗製乱造に直接関わり、欺く当事者に連なってしまった人でも、情報社会のモラルを信じられるのでしょうか。それが、冒頭のニュース番組中での発言に現れているように思います。

育児者がインターネットを失う

もし彼らが過度の警戒を抱きインターネットを敬遠したとしても、それはいわば「加害者の後遺症」でしかないかもしれません。そう思いながらも、番組では他のライターについて「小さいお子さんを抱えてらっしゃるお母さん方が、隙間時間、子どもが寝たあとに書かれる人も多い」と語られていたのを思い出します。翌日、マガジン航に掲載された「1円ライターから見た、キュレーションサイト『炎上』の現場」にも次の一節がありました。

小さな子供を育てながら、主婦が外に働きに出るのは現実的ではありません。かといって現代は夫の収入だけで暮らしていけるような時代でもなく、私と似たような境遇の主婦が、クラウドソーシングの現場ではたくさん働いていました。

サンケイリビングの子育てサイト「あんふぁん」の調査によれば、子育て情報源のトップはインターネット(79.4%)、次がママ友からのクチコミ(74.4%)となっています。また博報堂子育て研究所のレポートでは、ママの95.3%がスマートフォンを「毎日複数回利用」と回答。用途はメールと通話に続いてネット検索が多く、特に長子(長男・長女)が0~3歳のママで91.5%、他年代より5ポイント以上高い結果が出ています。

「1円ライターに含まれる育児者」達は、行動の不自由さという制約から誰よりもクラウドソーシングという働き方を必要としているように、同じ制約から誰よりもインターネットという情報源を必要としているでしょう。情報源だけでなく、社会の窓口としてさまざまな日常生活の負担を軽減し、コミュニケーション手段としてメンタルを支える一助になっているかもしれません。

その人たちがもしかしたらインターネットを失っているのだろうかと思うと、それが加害者の後遺症であるとしても、やはりある種の痛みを覚えるのです。

キュレーションメディア炎上の「欺かせた」問題

キュレーションメディア炎上には、著作権上の問題、不正確な医療情報発信の危険性、記事の粗製乱造を前提としたビジネスモデルの倫理性などが議論されているようですが、多くの人に「欺かせた」ことの問題は含まれているでしょうか。おそらく多くの人を「責任を持てるのは1280円分だけ」と言い放つモラル崩壊に誘い、多くの人から「信じられるインターネット」を奪っているのではと思います。

それらはあくまで加害者の後遺症ですが、負わせるべきではない傷痕だったのではと思います。付け加えるなら、たとえば育児者がインターネットを失い、育児が破綻したら、社会にも影響があるように思います。ブラック企業が「社会保障制度にフリーライドしている」と言われたのと、同じような構図がこの先にはあるのかもしれません。

(Photo: "project 52 > nr. 12 - danbo typing" by hjjanisch

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塚本 牧生

雑記帳

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