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クラウドのセキュリティ観が逆転した(2018年版)

昨年も書いたことだけど、クラウド未利用の企業には「クラウドはセキュリティが不安」と考えているところが多い。しかし、クラウド利用企業に聞くと「クラウドはセキュリティが高い」からだと答える企業も多い。そして今年の変化を言えば、セキュリティ向上を目的にクラウドを使う企業の割合は、ついにセキュリティ不安を理由にクラウドを使わない企業を大きく上回った。

ソースは、昨年と同じ通信利用動向調査のデータで、5月に2017年度の調査結果が公開されている。今年のデータでも、クラウドサービス未利用企業のクラウドサービスを利用しない理由では「情報漏えいなどセキュリティに不安がある」が37.9%でトップに来ている。一方クラウドサービス利用企業でが28.5%がクラウドサービスを利用している理由として「サービスの信頼性が高いから」を挙げている。なぜか表現が丸められているけど、調査票を見る限りこれは「サービスの信頼性や情報漏洩等へのセキュリティが高いから」を選択した企業の割合だ。

まず単純に両者のここ数年の推移をグラフにして(つまり昨年版のグラフに2017年のデータを加えて)みると、セキュリティ不安も微増を保っているけど、セキュリティをクラウド利用の理由に挙げる割合も増加を続けていて、その差は少し縮まっている。

ただ一つ注意したいのは、ここで比べてるのは、下図のようにあらわした場合の青い領域と赤い領域の「高さ」だということだ。比較するなら、より気になるのは青い領域と赤い領域の「広さ」、つまりどちらの企業の方が多いのか、の方ではないだろうか。

そこで次にクラウドサービスの利用状況の推移をまとめると、次のようになる。毎年、「未利用・利用予定あり」「未利用・利用予定なし」とも割合が減り、その分だけ「利用中」の企業が増えている。なお、ここには「全社的に利用」と「一部の事業部、または部門で利用」を合算している。

これらを掛け合わせ、前述の青い領域、赤い領域の割合の推移を表したのが以下のグラフだ。

2015年から2016年にかけて、ともに微差ながら比率は逆転し、「セキュリティ向上を目的にクラウドを利用」する企業が「セキュリティ不安を理由にクラウドを未利用」の企業を上回った。そして2017年には、ほぼダブルスコアとはっきり差が開いた。今後、このトレンドが再逆転することはなく、さらに差が開いていくのだろうと思う。

ところで、平成30年版情報通信白書では、次のように指摘している(第3章第3節)。

クラウドサービス未導入者に対してクラウドサービスの課題に対する認識を聞いたところ、日本企業においては「課題がわからない」という回答が諸外国と比較して大きな割合を占めている。我が国企業においてクラウドサービスの導入が進まない背景には明確な課題が認識されているわけではなく、どのような課題があるかも認識されていない状況にあることが示唆される。

利用企業には、クラウドのセキュリティに対する信頼感がある。そして未利用企業にあるのは、その逆の不信感ではなく、クラウドのセキュリティについて「そもそも何が課題かわからない」ことによる不安感なのではないだろうか。セキュリティ人材の育成が社会的な潮流になっているが、彼らに期待されるのはセキュリティの高度化よりも、まずセキュリティの啓蒙と「漠然とした不安」感の払拭ではないかと思う。おそらくはそれが、結局はクラウド利用の促進にも関わってくることなのだ。

(追記) 7月19日に改稿しました。改稿前は、図でいう赤い領域を「利用予定なし+その他」相当(実際には全体から利用中と利用予定を引いた分)から計算していましたが、データを見直した際に母数は「利用予定なし」のみと明記されていたため、計算しなおし、あわせて本文も改めました。

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