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デジタル“が”変える、がDX

最近IT業界では右を見ても左を見てもデジタルトランスフォーメーション、略称DXの話題が飛び交う。Web 2.0とかクラウドコンピューティングとかと同様、このDXも中心的なコンセプトがあり境界線というか輪郭のないバズワードなんだけど、さすがにそれは違うだろうというものもときどき出てくる。じゃあDXってなんだろう、という僕なりの試論。検討時間1時間、検討会場はお布団の中というインスタントな試論です。

思いついたのは、DXをお題に「似て非なるもの」と言われたのがきっかけ。それならなんと言っても「DXと電子(デジタル)化」で、混ぜるな危険の世界。でも、じゃあ逆に似ているものはと考えた時、DXとUXが似ている気がしてきた(字面も似てる)。

この1月から、東京駅から茅場町までの通勤に自治体とドコモのやってるコミュニティサイクルを使っている。利用者の僕にとってみれば駐輪場に行って置かれてる自転車を借り出し、自分の手でハンドルを握り足でペダルを踏み、目的地最寄りの駐輪場で返却するまでのすべてがアナログ。わずかなりともデジタルを感じさせるのは、SUICA定期券が鍵がわりになることぐらいだ。でも裏側の仕組みはデジタルで、その仕組みが僕というユーザーのエクスペリエンス(UX)を変えている。

このシェアサイクルは僕というユーザーの体験だけでなく、地域を変えている。起点と終点の駐輪場を任意の組合せで選べるから、人の流れを変える。電車移動なら東京駅乗換一択だったはずの僕が、PC関係の買い物がしたければ秋葉原へ、夕食を食べて帰りたければ有楽町へ、近辺一円を利用するようになる。近辺への移動が電車や自動車から自転車に変わると、車の流量が変わる。自転車がシェアサイクルに変わると、駐輪場から出て駐輪場に戻る(それ以外のところに止めると料金が発生し続ける)から、路上駐輪が消える。車と路上駐輪が減った街は歩く人に優しく、歩行者と自転車の増えた街は路面店が賑わう。

デジタルな仕組みが実現したユーザー体験が、ユーザーの周囲まで、暮らしや社会まで、非ユーザーまで及ぶエクスペリエンスの変化(トランスフォーメーション)を生み出す。これがデジタルトランスフォーメーション(DX)の一つの姿だろう。

UXはデジタル“が”変えるユーザー体験であって、ユーザー体験をデジタル化、つまりデジタル“に”変えることじゃない。DXはデジタル“が”変える暮らしや社会であって、暮らしや社会をデジタル化することじゃない。DXはデジタル“が”アナログ“を”変えることが多くて、だからその接点にはIoT機器という“目”やロボットという“手”が置かれることが多いけど、そんな大仰じゃなくていい。スイカ定期券で解錠できるだけのIoT自転車は、立派にUXを変えDXの一端を担っている。

あくまでユーザー体験、あるいは暮らしや社会が変わることが、UXやDXという概念、コアコンセプトだと思う。デジタル化という概念、デジタル“に”変えるというコンセプトは、デジタル“が”変えるというUXやDXと字面だけ見ればほとんど一緒だけど、まったく別々の独立したコンセプトだ。デジタル化がDXではないことは、あの99%アナログな自転車が教えてくれる。

(写真は勤務先最寄りの駐輪場に並ぶシェアサイクル。筆者撮影。)

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